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オマケ 恋じゃなくても2
あのガキを認めたのは、ガキがアイツに惚れ込んでいたからだし、アイツがなんだか嬉しそうだったからだ。
もうだるそうにセックスしかせがまなくなったアイツが、少し笑うようになった。
「舐めるか?言うて乳首自分で摘まんで、穴も指で広げて見せたったのに、今更真っ赤になって拒否んねんで?シャワーでオレの身体も洗うくせに」
アイツはクスクス笑う。
「悪趣味やな。・・・新種の変態やねんからほっといたれや。お前みたいなド変態とはまたちゃうねんから」
オレはアイツの頭を叩く。
話題はともあれ、昔みたいなやりとり。
アホやな、お前、みたいな。
それが嬉しかった。
アホでボケた親友が久しぶりにいた。
会いたかった。
淫らで溺れるような、セックスの相手ではない親友。
コイツに会えなくて寂しかったのだと悟った。
「休みにどこか行かへんかって。どこかに行くよりずっと後ろから突っ込まれいたい言うたら、困ってた。・・・海に一緒に行かへんかってさ」
アイツの瞳が遠い。
帰れなくなった場所を思うのだ。
高校さえ卒業したら島に帰るのだと言っていた。
海のある場所へ。
また毎日海に潜るのだ、と。
都会へ無理やり連れてこられた人魚は、海へ帰れることだけを待ちわび生きていた。
都会に来た人魚は海へ帰れなくなってしまった。
都会の毒にあてられて。
帰れない海を思うことに疲れて、毎日毎日快楽の海に沈む。
そんなアイツに海を見せるなんて・・・。
オレは絶句したが、アイツは小さく笑った。
「行ってみようかな・・・見るだけでも、そのうち」
そんなことさえ言った。
すっかりこちら訛りになれたアイツの、忘れかけてた遠い島の訛りがした。
「そっか」
オレはアイツの肩をだいた。
引き寄せて、キスして、セックスする以外の意味で。
それが嬉しかった。
どんなにセックスが気持ちよくても、その中をかき回し、イキたくても。
オレが好きなのは、オレが会いたいのは、オレが殺したくないのは。
オレの親友だったからだ。
こうなることで、長く会えなかった、オレの親友。
とうとうその日が来たのだと思った。
アイツの父親から連絡があった。
父親は新しい家庭が大切なので、アイツのことなんかもとから気にしてない。
というより、最初に行方不明になり、大勢の男とやっていて死にかけたアイツが発見されていらい、殆どアイツと関わってない。
部屋を与えて放置した。
オレ達のヤリ部屋になってるあの部屋を。
困ったように言われた。
今度は下級生と海で心中しかけた、と。
とりあえず溺死はしなかったが、来て欲しい。
手が離せない仕事があるのだ、と。
オレは真っ青になって駆けつけた。
アイツは目覚めて、笑った。
前に死にかけた時とはちがって。
「一人で死ぬわ、オレ。もうええわ」
綺麗に笑った。
「・・・ごめんな、ホンマごめんな・・・」
そう言ってオレを見つめる目は、深い水みたいで、ああなってしまってからの空っぽの目ではなかった。
「ええかな、思って。なぁ、お前がオレを好きでいてくれてんの知ってる。ありがとう。でも、な、こんな最悪なオレを好きなアホがおってくれたんや・・・オレを殺そうとしてくれてん・・だからええ、一人で死ぬ、もう誰も巻き込まん」
アイツはニコニコと笑った。
その鼻にはチューブがつけられ、酸素が入れられていた。
アイツの呼吸器はもう一つ悪くなってきていたのだ。
多分また死にかける前から。
「多分、もうオレはアカンねん。ちゃんと一人で死ぬからな、許してくれる?お前達に酷いことさせたこと」
アイツの手がベッドから出てきた。
それを握った。
「酷いこと、ではないで。気持ち良かったしな」
オレは笑った。
アイツも笑った。
冗談みたいに。
「アイツには言わんで。もうすぐ死ぬこと。お願い。親友やろ、黙ってて」
小さな声で言われた。
アイツが何を考えているのかなんか、分かった試しがない。
でも、頷いた。
「お前さ、親友ってなんでも言うこときいてくれるヤツのことやと思ってへん?」
オレは苦く言う。
ほんま、もう、コイツ。
「ちゃうんか?」
ケロッとアイツが言うから頭を叩いた。
「アホが!!」
「死にかけてんのに」
「早よ死ね!!」
「死ぬし」
オレ達は顔を見合わせて笑った。
なんか、切なくなってキスしようとしたら拒まれた。
「約束したからあかん」
「キスもか?、こんなん挨拶やん」
呆れた。
何を今更。
「でも、ダメやねん」
嬉しそうにアイツが笑ったからもういいと思った。
アイツは1人で死んだ。
アイツの親が送り込んだ、遠くの病院で。
週末には会いにはいった。
アイツは幸せそうだった。
苦しそうではあったけど、終わりを楽しみに待っていた。
海に帰るのだと。
死ぬ時には間に合わなかったけど、またお願いはされていた。
いつものように無理難題で。
「オレにばっかり無茶言いやがって!!」
オレはおもわず言ってしまった。
「親友やんかぁ」
アイツは笑った。
オレはため息をついた。
どうせ、オレはコイツに逆らえない。
そして。
あれから数年が過ぎて。
明日、アイツの全ての願いをかなえられると思った。
明日、あのガキに会いに行くか。
これであのガキがどうなるのか。
今でもギリギリのところにいるガキが。
救われるのか。
壊れるのか。
わからなかった。
アイツの願いの一つだから、ガキの様子はずっと気にかけてきた。
生きてた頃のアイツみたいに、ガキは海に取り憑かれている。
一年中潜る。
アイツを探して。
かろうじて社会生活を送っているが、とてつもなく危うい。
恋とはこんなモノなのか。
オレはこうはならなかった。
などとぼんやり考えていたら、ドアを誰かに蹴られ、ぶちまけ切れて開けたら、明日会いに行くはずだったガキがオレ以上にぶち切れて立っていた。
「あの人はどこや!!」
ガキは怒鳴った。
驚いた。
なんで知ってるんや。
オレは遺骨をガキに渡した。
全部。
これがアイツの最後の願い。
いくら放置していたとはいえ、死んだから迷惑をかけない息子なら可愛いらしく、父親は骨を手もとにおきたがった。
でも、オレは少しでも父親の手元には置かせなかった。
とりもどし、全部ガキに渡したのだ。
数年かけて父親を説得したのだ。
「オレは全部アイツのや」
それが親友の願いだったから。
無理ゲーだ。
自分の息子と心中しようとしたガキに遺骨を全部渡せと言えと?
どんな無理ゲーやねん。
むちゃブリやめて。
だが、オレはやってのけた。
そして、アイツが最後に入った海に少し灰を播いた。
ガキがここに来るのをしってたからだ。
なんでそうしたのかわからない。
とにかく、オレはやってのけたわけだ。
ガキはオレが海に骨を撒いた話に強い興味を示したけど、とにかく恋人を抱きしめて帰った。
手に入れた恋人に対して、どこか・・・何か違った奇妙な態度だったけど。
理由は数週間後にわかった。
呼び出したガキはやけに焼けていた。
聞いたら島に行っていた、と。
アイツの島や。
そしてガキは笑った。
「あの人が帰ってきた」と。
オレはその笑顔に鳥肌が立った。
話を聞いて絶句した。
ガキはせっかくせっかくせっかくせっかく、手に入れたアイツの骨を全部島の海にながしてしまっていた。
こんのどアホぶち殺すぞボケが
瞬時に怒りが込み上げたが、その目を見て黙った。
何かの境目を越えてしまった人間の目だった。
笑いながら、犯され殺されることを切望する、アイツの目もこうだった。
一つのことしか望んでない。
もう踏み止まることをやめたのだ、と悟った。
だからオレは何も言わなかった。
何も。
島で暮らすと決めたガキの決断にも何も。
ガキは幸せそうだった。
とても。
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