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第10話 貴臣の気持ち②*
兄さんのことを気にかけるようになると、今まで気づかなかったことが浮き彫りになった。
兄さんが男友達と歩いているところにたまたま出くわしたことがある。
声をかけると、兄さんは俺の事をその人に紹介してくれた。背は俺くらいあって、髪が長めで理知的な顔立ちの男だった。
その時の兄さんの表情や視線を見て確信したのだ。
兄さんはこの人に恋をしている。
その日の夜に早速問い詰めてみると、案の定だった。
赤く火照る顔を見せつけられると、兄さんを毛嫌いしていた頃の気持ちに似た感情が沸いてきたので、自分の気持ちにもハッキリと気付いた。
兄さんが大好きだ。
でもこの恋は許されない。
だから弟として、兄さんのことを応援してあげたい。
兄さんは惚れっぽいみたいで、常に誰かに恋をしているようだった。相談されればアドバイスもしたし、告白をしたらどうですかと言えば兄さんは従順し、その通りにした。
両想いになることは難しいみたいなので、内心ホッとしていたのだが。
『ふ……っ、……ぅ』
ある日、夜中にふと目を覚まし、喉を潤わせようとリビングへ向かう途中だった。
閉ざされた部屋の向こうから声が聞こえた気がした。
野良猫の鳴き声かと思ったが、立ち止まって耳をよくすませてみれば、今度ははっきりと声が聞こえた。
『ぁ……っ』
苦しそうに呻いている兄さんの声だった。
体を丸めてお腹を抱えている様子が咄嗟に思い浮かんだので、ノックもなしにドアをそっと開けた。
部屋は真っ暗で、兄さんは壁側を向いて首元まで布団を被りスマホで動画を見ていた。
まさか自慰をしている声だったとは、と早とちりした自分が恥ずかしくなった。
こうしてドアが開いたことに気付かないということはイヤホンをしているのだろう。
時折モゾモゾと動く体がなんとも扇情的でいやらしかった。
右手はしっかりと竿を持って上下に扱いているのだろう。
声はさっきほどは漏れなくなったけど、熱っぽい吐息を吐き出した音が聞こえて、気付けば自分も、はぁっと同じように一息吐いていた。
今声をかけたら、どんな反応をするのだろう。
飛び起きて破顔する? 出ていけ、と物を投げられる?
しかし兄さんのその姿を見ていると、可愛くて仕方がなくなったので声をかける事はやめた。
代わりに自分も、兄さんと同じ事をした。
ズボンの中に手を突っ込んで、なるべく兄さんと同じリズムで体を震わせる。
最近抜いていなかったので、すでに股間はカチカチですぐにでも達してしまいそうだったが我慢した。
兄さんはまだ、イっていない。
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