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第17話 omorasi披露*
下唇を噛み、膝を立てた太腿あたりの布をきつく握ると少しは気が紛れるが、尿意が消えるわけではない。
もじもじと膝を擦り合わせて足の爪先をきゅっと丸めると、貴臣は机に頬杖をついてにっこりと笑った。
「そろそろ、ですか?」
「……」
どんどん脂汗が滲んでくる。
気が遠くなりそうだった。
こんなに極限まで我慢しているのなんて、実に7年ぶりだ。
あれは小学生の頃。放課後、校庭で友達と遊ぶのについ夢中になり、家までの帰り道で今と同じ状態になったことがある。
あと5分もすれば自宅なのに、あの時は永遠に長く感じた。
走って走って、とうとう限界だと感じた俺は周りに誰もいないのを確認し、公園の草むらで用を足した。
あの時の安心感と開放感といったら。排尿がこんなにも気持ちいいと感じた事はなかった。子供ながらに、これが感じるという意味かと悟った。
久々にその時の我慢を強いられている。
子供の頃の自分に思いを馳せてしまったが、かなりやばい状況だ。常に身体中をくすぐられているようなむずむずとした感覚で、ちっともじっとしていられない。
大きな動作はしたくないが、意を決して勢いよく立ち上がってドアノブに手を引っ掛けようと試みるも、貴臣に止められた。
「どこに行くつもりですか」
「もう無理っ。勘弁して」
「ダメです。言ったでしょう、いつかはする羽目になるんですから今しても同じですって」
「でもそんないきなりっ……」
声を出すにも、お腹に力が加わって焦る。
腰や足をがくがくと震わせていると、貴臣はハンガーラックに掛かっていたネクタイを取り出して、俺の両手を拘束した。
「あっ、何してっ」
「逃げようとするからですよ」
手を交差させた上からぎゅっと固結びをされてしまった。
手首にネクタイが食い込む感触に肌が粟立ち、眉根を寄せる。こんなことをされるだなんて思ってもみなかった。
「こんな状態じゃ、満足に歩けないですね」
ゾクゾクッと体の奥から湧いてきた興奮やら羞恥やらを入り混じらせて、その場にへたり込んだ。
貴臣も、拘束した俺の手首を片手で掴んで同じ目線になる。
やめてほしい。どうかそんな風に見つめないでほしい。
どのくらい時間が経ったが分からないが、自分でも無意識のうちに縛られた両手で股間を押さえつけていた。
だがそれも気休めだ。もう俺は逃げられない。
恥ずかしさのあまり、涙が出た。
滴を貴臣が指で拭ってくれる。
「俺はどんな兄さんを見ても大丈夫ですから。気にしないで」
「ほっ、ほんとっ? 変にっ思わないっ?」
「ええ。思いません」
「ひっひかないっ? 嫌いにならないっ?」
呂律が回らない人みたいに、声をしゃくり上げる。
「引きませんし嫌いません。絶対に、大丈夫」
「……っあ、あ……」
その優しく諭す言い方に自ら緩めたのか、それとももう耐えきれなかったのか。
欲求が絶え間なく溢れ出すのを感じた。
下半身がブルブルと震えて、奇妙な開放感と共に尻の下に水溜りができていく。
履いている朱色のジャージが濃い色に変わって、その染みがどんどん大きくなっていった。
「あ、やっ、やだぁっ……あぁぁ……っ」
炭酸水をグラスに注いでいるみたいな音。しゅわしゅわと音を立てて漏れ出るそれを途中で止めることはできない。耳を塞ぐこともできぬまま、ただ呆然と、下半身を見つめていた。
水たまりは貴臣の足元にまで伸びていて、靴下に染み込んでいた。
目蓋の周りがじわじわと熱くなっていく。
「ぁ、うぅ〜……ごめんねっ……たかおみぃ……っ」
今度は涙が止めどなく溢れ出す。
えぐえぐとすすり泣きをしていると、貴臣は俺を抱きしめて、よしよしと頭を撫でてくれた。よくできましたね、とでも言うように。
「あっ……貴臣、服汚れるよ……っ」
「あとで洗えばいいだけです。どうしてでしょう。兄さんのその姿、ちっとも嫌じゃないです」
頭を抱き寄せられ、肩口に額を押しつけられると安堵する。
やっぱり貴臣って、優しくて格好良くて最高で、俺の自慢の弟だ。
拘束された両手で貴臣のシャツを掴みながら目を閉じ、しばらくお互いの心臓の音を聞き合っていた。
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