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第54話 最後のキス②
まるで何かの生き物みたいにうごめくそれを、自らの舌でも食らいつく。追いかけっこしているみたいで、なかなか舌を捕まえることができない。
顔の角度を変えられたので、それに合わせて俺も顔を傾け、上顎と下顎を使って舌を吸ってみる。
じゅ、と卑猥な音を鳴らすと、貴臣の顔が離れていった。
「もっと肩の力を抜いて。大きく動こうとしなくてもいいですから、相手に身を任せる感じで、リラックスしてください」
畜生。本当にまともなアドバイスしてきやがって。
「分かったよ」
「声も我慢しないで、本能のままに聞かせてください。その方がそそられます」
なんかすごく恥ずかしいことを言われた気がする。
貴臣にまた唇を塞がれ、アドバイス通りに全身の力を緩めた。
頬に添えられた貴臣の熱い手に触れる。
貴臣は手を剥がし、俺の指と絡ませて握ってきた。恋人つなぎってやつだ。
「んっ…ん──……っは」
眦に、涙が滲んだ。
これはどういった類の涙なのか。無意識に足に力を入れて痛むのか、息が苦しくて生理的に出た涙なのか、それとも。
唇が一瞬離れた隙を狙って、俺は呟いた。
「……好き」
貴臣は一瞬、動きを止める。
「せんぱい、好き」
燃えるように耳まで熱い顔でそう言えば、貴臣はその意図を感じ取ったみたいで口の端を上げた。
「俺も、怜が好きだよ」
激しく口腔を貪られ、溜まっていた雫が頬を伝ってソファーの上に落ちた。
俺はずっと、頭と心がちぐはぐなままに睦言を繰り返した。
「先輩、好き」
──貴臣、好き。
「うん。好き。可愛いよ、怜。キス気持ちいい?」
「ん……気持ちい……」
「怜の顔、よく見せて」
「あ……ん……ッ」
「もっと、舌突き出して。怜とキスができて嬉しいよ」
貴臣は何度も俺の名前を呼んだ。
怜って名前、女っぽくて気に入らないって思った時もあったけど、怜で良かったって思えた。
ていうか先輩、俺の事名前で呼んだことないし、そんな砂糖みたいに甘ったるいセリフ言いそうにもないけどな……なんて冷静になって分析している自分も、たまに出てきちゃったりして。
「怜、好きだよ。大好き」
「……俺も、先輩が、大好きです」
──貴臣が、大好きです。
この後両親が帰ってくるまで、義兄弟のレッスンは続いたのだった。
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