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第62話 秋臣と約束

 翌朝目が覚めると、体調はほとんど良くなっていた。昨日、無理やり汗をかいたからだろうか。  寝転がったままスマホを見ると、秋くんからメッセージが入っていた。 『明日って会えない?』とのこと。  送られてきたのは夜中の三時だ。今日だって普通に学校はあるはずなのに、彼はちゃんと寝ているのかと少々心配になる。  まだ左足は完治していないので、事情を返信すれば電話がかかってきた。 『おはよう。大丈夫? 捻挫ってサッカーで?』 「ん、ちょっと、家の階段踏み外しちゃってさ」 『えぇ、怜くんって結構おっちょこちょいなんだね。分かった。じゃあ来週は?』 「うん。その頃には良くなってると思うけど。何か用事?」 『買い物に付き合ってほしいんだ。ほら、俺、友達いないじゃん?』  秋くんは自重気味に言う。  それが本当なのか嘘なのかやっぱり分からないけど、あの美術の先生との関係は嘘じゃないんだろうな。何もかも投げ出してでも、あの人と一緒にいたいと思える相手。 「分かった。じゃあ週末、土曜日に」  あまり深く突っ込まないように、早々に電話を切った。  それと同時に部屋のドアが開けられて、貴臣が顔を覗かせた。 「おはようございます。具合、どうですか」 「おはよ。うん、今日は学校行く」 「そうですか。良かった」  貴臣はホッと一息吐いて、俺のいるベッドに腰掛けた。  俺も上半身を起き上がらせると、やさしく頭を撫でてくれた。 「あの、今電話している声が聞こえたんですが、週末に出かける予定なんですか?」 「あぁ、今週じゃなくて来週な。秋くんと買い物に……貴臣も来る?」 「そうでしたか。いいえ、秋臣はそれを望んでないと思いますので。楽しんできてください」 「そっか」    いい機会だから、もう一度秋くんに貴臣とのことを話してみよう。2人がまた、仲良く話せるように。  手を借りて、部屋を出る。階段を慎重に降りている最中、貴臣は言った。 「来週でしたら、足ももう治っていますかね」 「うん、さすがに治ってるだろ」 「では来週、秋臣との用事が終わった日の夜、時間もらえますか」  頼り甲斐のある腕にしがみつきながら、その言葉の意図を探った。  そうやって言う時は、だいたいレッスンに関してのことだ。  たぶん、最後のレッスンについて。

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