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第71話 貴臣の代わり

 お互い無言だけれど、この場の雰囲気には似合わないポップなBGMがずっと流れている。  最近話題で人気の失恋ソングらしく、『本当は君の1番がいい』『でも分かってるよ、君の1番は僕じゃない、無理だって』とか流れてくる。  うーん、とてもじゃないが今はやめてほしい。 「怜くん」  涙目になってしまって、余計に目が合わせられなかった。  どれだけ貴臣のことを本気なのか悟られてしまったみたいで恥ずかしくなり、ゴシゴシと瞼をこすった。 「ごめん、秋くん……お願いだからどいて。こんな所、貴臣に見られたくない、から……」  ぐぐ、と秋くんの胸を押すのに、なぜかビクともしない。  なぜだ。身体能力は俺の方が上なのに。  体重を掛けてみるが、秋くんも踏ん張っているみたいで岩のように動かない。  さすがに俺も本格的にキレた。   「もうっ! どいてって言ってるじゃん!!」 「怜くん、俺と付き合う?」 「……は?」 「もし怜くんが俺と付き合って慰めてくれるっていうんなら、先生と別れてあげるよ」  突然の提案に、頭がうまく回らない。  付き合うって?   俺が? 秋くんと?  秋くんは可哀想な人を見るような目で俺を見てくる。その瞳には慈悲や同情といった感情が滲んでいるのが分かったので、思い切りかぶりをふった。 「いや、それは無理だよ! 秋くんと付き合うとか考えられない」 「利用してもいいよ。俺、あいつと顔だけは似てるし」 「何言ってんのー?!」  ダメだ。こんなことしている間にも、貴臣が── 「お兄とは無理なんだったら、俺と付き合えば? なんならキスしてみてもいいよ。ほら、お兄ってこんな顔してるでしょ?」  秋くんは前髪をかき上げた。  少し顎を持ち上げて目を細め、伏し目になって俺を見下ろしてくる。  そのアンニュイな表情が本当に貴臣と瓜二つで、無意識にゾクッと鳥肌が立ってしまった。  キス、と言われたから、秋くんの唇から目が離せなくなった。 「あれ、本当にしたいの? いいよしても。キスくらい減るもんじゃないし。目閉じてよ、怜くん。お兄にされてると思ってさ……」  俺は一体、どこから間違えた?  秋くんと、今日会う約束をしたところか?  それとももっとずっと前──貴臣と、初めて出会った時から?  貴臣の本物の兄貴みたいになると意気込んだあの時から。  貴臣に冷たくされて、そこで心が折れていれば。  少しでも心を近くに置きたい、寄り添いたい、そんな思いを持たずに貴臣と心を通わせることを諦めていれば、今こんな風にならなかったんじゃないか。    好きな気持ちって、どうやって消せばいいんだ。  誰か教えてくれ。魔法みたいに、相手を嫌いになる方法──

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