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第81話 変わらぬ日常、変化する関係

 次の日学校で、相良先輩に会った。  悠助くんから聞いた内容は本当なのかと問われ、元気よく首肯した。  貴臣の言っていたように、俺たちは晴れて恋人同士となったわけだ。  でもいきなりキスとか、放課後一緒に帰ったりとかはしない。  俺は部活もあるし、先輩だって用事がある。夜もたまに電話で取り留めのない話をするだけで、特に恋人同士っぽいことはまだしていない。  だけど先輩と話すのはすごく楽しかった。面白くて頭のいい人だから、俺の知らないことをたくさん教えてくれた。  大丈夫だ。俺はきっとこの人を、これからどんどん好きになるんだ。  けれど心はずっと曇り空なのが気にかかる。いつになったら梅雨明けするのか。  どんなにモヤモヤしたって、いつも通りの日常だ。太陽は登り、朝が来て鳥が飛んで、風が吹く。  いつも通りにスマホのアラームを止めてカーテンを開け、ちょっとだけストレッチした後にベッドを降りて部屋を出る。  歯磨きをして顔を洗い終えると、洗面台の順番待ちの貴臣がやって来る。 「おはようございます」 「おはよー」  鏡に映る貴臣にそう言って、俺はバスルームを出る。  いつも通りだ。ただちょっと違うのは、兄弟間の空気だけ。  貴臣はあの日から、俺にあんまり近付かなくなった。  と言ってもきっと、世の中の兄弟なんてこんなものだと思う。今までが近すぎたんだ、心も体も。  俺たちは、両親の前では上手い具合に取り繕っている。挨拶もするし、学校でこういうことがあっただとか、適当な会話だってする。    でも2階に上がれば他人になった。  それぞれ自室に入り、そのまま朝を迎える。  風呂に一緒に入ったり、マッサージをする為に部屋に呼んでくれたりはしなくなった。  このまま距離が遠くなれば貴臣への気持ちも薄れて、いつかは完全に無くなるだろう。 「怜、貴臣くんと何かあった?」  ある日の夕食後、貴臣が2階へ上がった後で母さんに言われてビックリした。  今日だっていつも通りに過ごしたのに。 「ううん、別に。なんで?」 「そう? なんだかお互い、遠慮しているように見えたから」 「遠慮って? 普通に仲良く話してたじゃん」 「それはそうなんだけど……前と雰囲気が違う気がして。前は夕御飯を食べた後、一緒に2階に上がったりしていたから」  びく、と肩が跳ねてしまいそうになったけど耐えた。 「でも、私の思い違いね。ごめんなさい変なこと言って」 「ううん」  何食わぬ顔をして2階に上がり、部屋に入ってため息を吐いた。  母さんは鋭い。繊細で、人の気持ちや顔色に敏感だ。こんな調子だと、きっとまた母さんを心配させてしまうだろう。  けれど何をどうしたらいいのか分からない。  貴臣から言われた言葉が、重くのしかかっていた。 『どうして、俺の殻を平気で破って──』  諦めたくなかったから。  この家で暮らし始めた時、母さんに心配をかけまいと、貴臣にどうにか近付こうと試みた。  結果的に事故をきっかけに2人を纏う空気が変わったから、俺のしていたことは無意味だったのかもしれないが。  でも今回そう言ったってことは、もう殻を破るなってことで、それは貴臣なりの拒絶なのだ。  それでもやっぱり、伝えたいことがまだ伝えられていない。  先輩と恋人らしいことをする前に、少しでいいから聞いてもらおう。うまく言葉にできなくても。

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