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第84話 先輩の家で①

 相良先輩の家はオートロック付きのマンションだった。  しかも駅前で立地も良い。  ドアを開けてもらい、お邪魔させてもらった。 「何もないんだけど、くつろいでってくれよ」  先輩に促され、(かまち)に上がる。  本当に誰もいないみたいだ、ドキドキする。  と、思った矢先、リビングの方からひょこっと顔を覗かせた人がいた。 「こんにちはー、いらっしゃい」  悠助くんだった。  コートとリュックを身につけているから、これから出かけるみたいだけど。 「あ、こんにちは」  俺は笑顔で会釈する。  この前、貴臣が俺をいじめた後にここに来て、悠助くんと何を喋ったのかな。  気になるけど、もうそういうのは考えないようにしよう。 「あれ、お前まだいたの? 時間は大丈夫?」  先輩が悠助くんに問う。 「いや、ちょっと言っておきたくてさ。えっとー、怜さん、ですよね」 「はい」  貴臣から、いろいろと話は聞いているのだろう。  悠助くんはニコニコしてから俺に耳打ちした。 「兄貴、マジで性欲強いから、覚悟しといた方がいいっすよ」 「えっ」 「よくこんな変態マンと付き合うって言ってくれましたね。心の広い人だなぁ。兄貴も貴臣も、すごく喜んでましたよ。あ、もちろん俺も、すげー嬉しいです」  貴臣も?  そこのテーブルで3人が笑い合うシーンが勝手に作り出された。  なんて答えたら分からずにいたら、先輩は悠助くんの首根っこを掴んで俺から引き離した。 「誰が変態マンだっ。俺がいつもそんなことばっか考えてるみたいに言うな」 「え、考えてんじゃん。昨日だって鼻息荒くして『明日この家に来るんだよ~』ってすげー興奮して」 「だからっ、もう、お前いけっ」 「はいはい、邪魔者はもう退散します。じゃあ怜さん、兄貴のこと、よろしくお願いします」 「あ、はい……」  何をお願いされたのかは知らないが、悠助くんは鼻歌を歌いながら出て行った。  先輩は頭をボリボリ掻いて恥ずかしそうに笑う。 「ごめんな~。あいついつもあんな調子で俺のこと揶揄ってくんだよ」 「仲がいいんですね」 「良かぁねぇよ、あんな奴。あぁやって調子乗るところがいつもイラッと来るし、毎日ムカついてばっかり」 「でもなんだかんだで好きなんですよね?」 「まぁ、本気で面倒くさいって思う時もあるけどな。切っても切れない縁だから、それなりに仲良くはするよ」  そうだよな。普通の兄弟はそんなものだ。  近すぎず遠すぎず、感情は一定の距離を保って家族を演じていく。  ぼーっとしてしまうけど、先輩は俺の気持ちには気付かずに椅子を引いてくれた。

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