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第87話 本当の気持ち①

 リビングに戻ってきた俺たちは、テーブルを挟んで向かい合わせに座った。  相良先輩は、さっきシンクにぶちまけてしまったコーヒー豆を綺麗に片して、改めて美味しいコーヒーを煎れてくれた。  コトッと、目の前にカップを置かれる。 「ありがとうございます……」  情けなくて申し訳なくて、顔が上げられなかった。  相良先輩は全く気にしてないといった表情でいるから、余計に心が痛む。 「まぁとりあえずさ、ゆっくりしようぜ」  先輩がカップに口を付けてコーヒーを飲んだので、俺も同じように少しずつ口に運んだ。  しばらく無言が続くけど、決して重い空気感ではなかった。先輩がずっと笑みを浮かべたままだったから。    どうしてそんなに、優しいんだろう。  俺、先輩の前で上手くできないどころか、他の男のことで頭をいっぱいにさせていたっていうのに。  酷い言葉で罵られてもしょうがないくらいに、最低なことをしてしまったというのに。 「あの、相良先輩」 「うん?」 「俺の本当の気持ちを、聞いてもらってもいいですか」  覚悟を決めて、先輩を見る。  俺はずっと逃げてきた。  逃げ続けた結果、目の前の先輩を傷付けてしまったのだ。    もうそんな気持ちにさせる人を出すのは今日で最後にしよう。 「俺、本当は貴臣のことが好きなんです」  相良先輩は何も言わずに、ただ俺に真剣な眼差しを向けていた。 「義理の弟だから、諦めなくちゃダメだって……だから俺はずっと、他の人を好きになることで貴臣への気持ちを誤魔化していたつもりだったんです。先輩とも付き合えばきっと、あいつのことを忘れられると思っていました。だけどやっぱり」  ぽたぽたと、俺の膝に雫がこぼれ落ちる。  申し訳ない。  先輩に期待させるだけさせておいて、何1つしてあげられていない。   「お、俺もうっ、本当に最低な奴で……っ、許してもらえるだなんて思ってません。先輩の気の済むまで、殴ってもらったりしてもいいです。なんでもします、すみません」  頭を下げる。  だから許してくれとお願いしているみたいで嫌だったけれど、今の俺にはこうすることしか思いつかなかった。   「いや、殴るなんてそんなことするわけないだろ。中田、そんなに泣くなよ。ティッシュで、ほら」  先輩はティッシュを数枚引き抜いて俺に手渡した。  俺はまた申し訳ない気持ちでそれを受け取り、涙を拭う。  何度も謝っていると、先輩は困ったように頭をかいた。 「いやー、あの……うん、事情はよく分かったよ」 「……はい」 「中田、ずっと苦しかったんだな」  ハッとして顔を上げると、先輩は笑っていた。 「偉いぞ中田は。自分の意志を押し殺して今日まで来たんだな。自分を否定して、他の男を好きになる努力をしてきたけれど、やっぱり出来なかった。悔しいよなぁ、悲しいよなぁ」  子供を宥める父親みたいな口調で言われ、俺は次から次へと溢れ出てくる水を拭いながら首を横に振った。 「偉くなんかないです。俺はいつでもバカで、結局自分のことしか考えてないんです」 「自分のことしか考えてなかったら、無愛想な貴臣と仲良くしようとしたり、事故った時にめちゃくちゃに取り乱したりしないぞ」 「へ……」  どうしてそのことを。  貴臣が自ら話したのか。

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