かなり迷ったけれど、結局貴臣に伝えることにした。 　秋くんには、俺の貴臣への気持ちがバレていること。そしてこの間は言えなかった、秋くんとの会話の内容。 　その流れで、秋くんが先生とお付き合いしていることも話してしまった。 　美術部の顧問と付き合っているのにはかなり驚いてはいたけど、秋くんとの会話の内容を知れた貴臣は安堵のため息を吐いていた。 「それもずっと、モヤモヤとしていました。秋臣のことだから、ふざけて兄さんにキスでもしたんだろうと思い込んでいたのですが」 「本当に何もされてねぇよ。ただ……その時に俺、秋くんに言ったんだ。もし貴臣と両想いだったとしても付き合わないよって」 　──俺には散々ダメダメ言っておいて、いざそうなったら自分のことは棚に上げて幸せになっちゃうんでしょ？ 　あの時は本当に、貴臣と気持ちが通じ合うだなんて予想もしてなかったから。 　ほらやっぱり。結局口だけじゃん。 　そんな風に俺に嫌悪の目を向ける秋くんの顔が想像できる。 「ならば秋臣に、それは間違いだったと言えばいい話ですよね」 「……は？」 　貴臣は立ち上がり、俺に不敵な笑みを見せた。 「行きましょう」 「どこへ」 「秋臣のところです」 　あ、この貴臣の表情。 　根拠はないのに、なぜか自信に満ち溢れている男の笑み。 　俺と一緒にいれば大丈夫ですよ、といわんばかりの。 　手を差し出されたので、反射的にその手を握って立ち上がった。 　さっきの大通りに出て、貴臣の横に付いて歩く。 「秋くんに言うの？　俺たちのこと」 「えぇ。そうしないと兄さんは、俺と一緒に生きてはくれないんでしょう？　それに秋臣には、知っておいてほしいんです」 　秋くんのことなんて放っておいて、付き合いましょうとは言わない貴臣。 　それが本当に嬉しかった。 　俺がそんなことをできるはずがないってちゃんと分かってるんだ。そして秋くんのことも、ちゃんと大事に思ってる。 　秋くんはきっと動揺するだろう。 　それでも、秋くんにも俺たちの想いを伝えたい。 　もう俺はメソメソ泣いてはいなかった。