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第97話 秋臣のお家

 秋くんが住んでいるという家は、そこから割と近かった。  昔ながらの瓦屋根の古民家風の家だ。  アプローチを進んで、貴臣が躊躇なくインターホンを押した。  すごい。緊張とかないんだろうか。  これから実の弟にドン引きされるかもしれないってのに。  ドキドキしながら待っていると玄関のドアが開いて、家主が顔を覗かせた。 「あら貴臣くん? どうしたの?」 「こんにちは。お久しぶりです」  女の人はどことなく貴臣に雰囲気が似ていた。  たしかこの人は、貴臣たちにとっての叔母…母親の妹だ。  俺は初めて会ったので、一応自己紹介をしてみる。  叔母さんも軽く自己紹介をしてくれたが、貴臣はそれを遮った。 「秋臣はいますか」 「えぇ、いるけど……」 「ではすみません、お邪魔します」  勝手に玄関に入ってしまった貴臣を見てギョッとする。  いきなりやって来てそんな……失礼じゃない?  でも叔母さんはごく普通に笑って「どうぞー」と俺も中に入れてくれた。  靴を脱いで框に上がると、叔母さんはスリッパを出してくれる。 「秋臣のこと呼んできましょうか。今お茶を出すわね。怜くんは苦手な食べ物とかある?」 「いえ、特には無いです……」  俺が言い終える前に、貴臣が横から割り込んできた。 「あぁ、何もいりませんよ。この後用事があって。用件を済ませたらすぐに帰りますので」    叔母さんは頷いて「奥の部屋にいるから」と教えてくれた。  貴臣は勝手知ったるなんとやらで、迷いなく廊下をずんずんと進んでいく。  縁側から見える、緑色の中庭。  つる性植物や雑木が所々に植えられて、木漏れ日が降り注いでいる。  外は明るいけれど室内は少しだけ薄暗くて、そのコントラストが綺麗だなと思った。  秋くんはきっと、この縁側に座って絵を描くことが好きなんだろうな…。それが秋くんの、心の癒しになってくれていたら嬉しいな。  そんな風に思っていたら、貴臣が畳の部屋を突っ切って、襖の前に立った。 「ここ? 秋くんの部屋」  この閉ざされた襖の向こう側に、秋くんがいるのか。  声をかけて出てきてもらおうと思ったら、貴臣は突然、襖をスパンッと左右に開いた。 (開けた! 勝手に!)  さっきから自己中すぎる貴臣に少々びっくりする。  秋くんはベッドに座ってスマホを持ったままフリーズしていた。 「……は?」  秋くんはポカンと口を開けている。  貴臣は何も言わぬまま部屋に入り、俺も中に入ったのを確認すると襖を閉めた。 「……え⁈  何勝手に入ってきてんの⁈」  秋くんは狼狽しながらベッドから降りた。  誰だってそんな反応をするだろう。  ましてや、亀裂が入ったままの兄に急に突撃されたら焦る。 「あの、秋くん。ごめんねいきなり。ちょっと話があって……」 「何? この間のことでわざわざ俺を怒りにきたの? あの時ちゃんと殴れなかったからその続き⁈」  秋くんはオドオドして、俺に助けを求めている。  そりゃそうだ。貴臣は秋くんをじっと見下ろしているだけだから、意図が分からないのだろう。 「秋臣」  貴臣に呼ばれ、秋くんはビクッと肩を竦ませる。  あぁ、ストレートに『俺たちは付き合うことになったんだ』とでも言うんだろうか。  秋くんと一緒に言葉の続きを待ったけど、貴臣は言い渋っているのか、なかなか言わない。 「何? 言いたいことがあるんだったら、はっきり言えば?」  秋くんはちょっと攻撃的だ。  虚勢を張る秋くんから目を離さぬまま、貴臣はようやく口を開いた。 「美術部の顧問の教師と付き合ってるのか?」  ピシッ。  空気が割れる音がした。  ま、まさか……それを先に言うとは……というか、本人に直接確認をとるとは……。  秋くんは片眉をピクッと反応させて、貴臣のことを睨めつけた。

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