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第98話 秋臣、混乱
「だったら何? それがお兄と何の関係があるの?」
「もしそうだとしたら、心配だから」
貴臣は表情を変えずに、諭すように言った。
秋くんは余計に口元を歪ませている。
「心配って? 俺に説教しに来たの? 暇だね、2人揃ってさ。他にやることないの?」
「秋臣は、誰かの1番になるべきだと俺は思う」
「あ、そ。怜くん、自分はもう何も言わないって電話で言ってたのは、これからは代わりにお兄が言うからって意味だったんだね」
「え、違……」
言い訳しようにも、その隙を与えてもらえない。
「俺だって色々と考えてんのに、どうしてそうやって言ってくるの? もう放っておいてよ。兄弟の絆かなんだか知らないけどさぁ、それをわざわざ見せつけに来ないでよっ」
秋くんは語尾を強めて言い、貴臣の体を両手で押した。
だが貴臣は岩のようにビクともしない。
それが余計に腹立ったようだ。
「出てってよ! もう俺のところには来ないで。俺たち、話すことなんて何もないじゃん!」
「それは嫌だ。俺はもう逃げたくないんだ。兄さんからも、秋臣からも」
貴臣はふと腕を持ち上げたので、俺は手に汗を握った。
もしかしてまた、あの時みたいに胸ぐらを掴むのでは……
だけど違った。
貴臣は秋くんの体を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめていたのだ。
「……は? 何してんの?」
貴臣の胸に埋まる秋くんは、混乱しすぎて目を白黒させている。
貴臣の手が、子供をあやす様に秋くんの背中を軽く叩いた。
「いつの間にか、こんなに大きくなってたんだな」
「は?!」
「本当は早く、こうすれば良かったんだ。秋臣に無視されるから自分も無視するだなんてルールは、作るべきじゃなかった。殻を破れるように、何度でも試みるべきだったんだ。兄さんが俺にしてくれていたみたいに」
……貴臣。
俺、うざったいって思われてたのかもしれないけど、ちゃんと大丈夫だったのか。
その一言で、あの報われなかった日々が浄化された気がした。
「……何言ってんのか全然わかんない。ていうか離してよ、マジキモイ」
秋くんはそう言いながらも、顔から耳まで真っ赤に染めている。
2人に入っていた亀裂に、貴臣がいま絆創膏を貼った。
「俺が何か気に触るようなことをしたならば謝る。悪かった。ごめん」
「理由が分からないくせに謝られても困る」
「なら教えてくれるか? 俺を無視し始めた理由」
「……それも怜くんに教えてもらえば?」
2人がこっちを見てくるので白目を向いた。
そんなっ! 確かに先生との関係を勝手に喋ったのは申し訳ないけど、それも俺の口から言えってのか!
貴臣は秋くんから一旦離れて俺に問う。
「兄さんは知っているんですか?」
「あぁ……うん、聞いたけど、俺からはちょっと……」
気まずくて目を逸らす。
貴臣は食い下がるかと思いきや、あっさり引いた。
「そうですか。では秋臣のタイミングで話してくれるのを大人しく待つことにします。──秋臣」
「なに」
「この間、兄さんが秋臣に言ってしまったことを取り消したいんだ」
「何のこと?」
「俺と気持ちが通じ合っても、付き合わないと言ったこと」
秋くんは俺と貴臣の顔を見比べて、ふっと吹き出した。
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