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第101話 俺もいいよ。
叔母さんへの挨拶もそこそこに、俺たちは家を出てきた。
もう辺りは薄暗い。
日が落ちるのが段々早くなってきた。
隣を歩く貴臣の方へ手を伸ばしかけ、ぐっと堪える。危ない。無意識に手を繋ごうとしてしまった。
だって俺たち、ようやく気持ちが繋がったんだ。
一方通行だと思っていた恋情は、互いに向き合っていた。
飛び上がりたいくらいに嬉しい気持ちを悟られないように、ごく静かに歩を進めた。
「これからどっか行く予定なの?」
「ん?」
「ほら、さっき叔母さんに言ってただろ、用事があるからって」
「兄さんだったら分かるでしょう」
「え?」
「俺と2人で生きてくれるんでしょう?」
「……」
余裕たっぷりの表情で見つめられ、考えた。
そしてある疑惑がわく。
秋くんにも無事(と言っていいものか分からぬが)了承を得たので、貴臣と生きていくことへの不安はなくなったけど。
2人で生きていくって、もしかして駆け落ちって意味?
学校も家族も何もかも捨てて逃避行的な?!
さすがにすぐには勇気が持てなかった。
貴臣がそこまで覚悟を決めるくらい、俺と本気なのは分かって嬉しいけれど。
「ちょっと待て! 一旦話し合おう!」
「え?」
「お前も俺もまだ高校生だ! 急にいなくなったりしたら友達も親も心配するし、働くにしてもそれなりに準備ってものがあるし!」
「ふふ、まさかどこかに逃げるつもりだとでも思ってます?」
「へ、違うの?」
「さっき秋臣に『いつでも家に来ていいから』と言ったじゃないですか」
あぁ、そういえばそうか。
ホッと一息吐くけれど、じゃあこの後の用事って?
なかなか答えが出せない俺に向かって、貴臣は耳打ちをしてくる。
「本当はホテルとか行きたいんですけどね。そういう場所は、もう少し大人になってから」
「……え」
てことはつまり──
真剣な眼差しを向けられて、頭がジンと痺れる。
貴臣も、俺とそういうことをしたいんだ。
レッスンじゃなく、本物の恋人同士がするみたいな感情のやりとりを。
「すみません、もう気持ちが抑えられないんです。家に帰って早く、貴方を抱きたいんです」
「お前……っ、そんなにはっきりと……っ」
「優しくする予定ですが、もしかしたらブレーキが効かなくなるかも。怖かったら、今ここではっきりと断ってください。そうしたら俺は貴方に手を出さずに部屋に篭ります」
最後のレッスンの時のように冷たくされたら、ちょっと嫌だし怖いけど──
余裕がなくてブレーキが効かなくなる貴臣も見てみたい。
どれだけ激しくされたって構わない。
狂熱の愛を俺にぶつけて来てほしい。
それに、そんな灼熱の塊のような瞳に見つめられて、断れるはずはない。
俺は顔を背けて、1人で勝手に歩き出した。
「行くぞ」
貴臣は小走りで俺の隣にやってきてクスクスと笑った。
「素直じゃないんですね」
「あ? 何がだよっ」
「俺もしたいからいいよって、優しく言ってくれてもいいのに」
「やるなと言われればやるような男に断っても意味無いだろ」
「えぇそうですね。そういうことにしておきます」
「しねぇぞっ! そんなこと言ってっと」
ごめんなさい、とまた笑われ、俺も面映い気持ちで唇をかんだ。
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