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第114話 いらっしゃい、俺の運命の人
時間なんてあっという間に過ぎるんだろうなぁと思ったけど、本当にその通りだった。
それはきっと、充実していたからこそ、そう思えるのだろう。
愛する人がいて、愛してくれる人もいる自分は幸せだ。
出来ればずっとあのままでいれたら良かったけど。時間は止まってくれない。体も環境も変化する。
貴臣は高校3年生になり、俺は大学1年生になった。
もし合格出来なかったら浪人してもいいかなーなんて目論んでいたけど、手を抜いたらダメですよと鬼畜な恋人に怒られ、俺なりにちゃんと受験勉強はした。
結果、第1志望の大学に合格できた。
こっちに引越ししてきて数日は、寂しかった。
毎日俺の隣にいた貴臣。
朝も夜も、時間が許す限りお互いを求め合っていたのに傍にいない。
だけど貴臣は、あの時した約束をちゃんと果たしていた。
俺がこの先ずっと笑っていられるように、幸せを感じられるように頑張る、と言ったこと。
電話でたくさん話をしてくれた。
離れていたって気持ちは繋がっていると、心の底から思わせてくれたのだ。
大学ではそれなりに友人もできた。
授業もバイトも大変だけど、毎日楽しいキャンパスライフを送っている。だがそれ以上に楽しみなこと。
今日は、運命の人が俺に会いに来てくれる日。
「おかえりなさい」
自宅に帰ると、貴臣がすでに部屋の中で待っていた。
「ただいまー」
存在を確かめ合うように、ぎゅっと抱きしめてキスをした。
「悪いな。結構待ってた?」
「いいえ全然。バイト大変だったんですか?」
「うーん、仕事は終わってたんだけど、ちょっと話しこんじゃって」
「へぇ……」
「う、浮気じゃねぇぞ? 店長の世間話っていっつも長くて、しかもタイミングよく切り上げるのが難しいんだよ」
「兄さんはお人好しですね。『全く興味がないので失礼します』でいいじゃないですか」
「お前じゃないんだからさ」
言い合いながら、食卓に皿を並べていく。
毎週泊まりにくるのはさすがに親に変に思われるから、せめて月2回くらいに留めろと伝えてある。
貴臣はしぶしぶ了承した。来れる日はだいたいご飯を作ってくれることが多い。
オムライスとサラダを皿に盛り付け、2人で向かい合って食べた。
「秋くん、変わりなかった?」
「ええ。大変だけれど、充実しているみたいですよ。これは最近描いた絵らしいです」
スマホの画面を見せられて「おおー」と素直に関心した。
鉛筆の素描で、林檎と牛乳パックを斜め上から見た構図で描かれていた。林檎は立体的で美味しそうに見えるし、牛乳パックには細かい文字やシワまできっちり書き込んである。
「すごいな~。写真みたいじゃん」
「今はデザインコンペに出す絵を描いていると言っていました。寝る間も惜しんで、夢中になっているそうですよ」
秋くんは今年の春、無事に貴臣の高校の美術科に入学することが出来た。
あの時カフェで語っていた目標を、きちんと達成したのだ。
貴臣もあれから気持ちは変わってない。俺と同じ大学の理学療法学科に入れるように日々頑張っている。
といっても、貴臣は俺よりも優秀だから、そんなに頑張りすぎなくてもたぶん入れるとは思うけど。
秋くんと関係があった美術部の顧問は、去年の春、他の中学へ転任になったらしい。
たまに秋くんと電話で話すけど、今はもう、その先生のことは話題にも上がらなくなった。
中2の頃はクラスに馴染めず孤立していたようだが、中3ではいい友人に恵まれて楽しい1年を過ごしたと聞いた。
高校でも、充実した学校生活が送れているのであれば俺も本当に嬉しい。
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