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第115話 ずっと一緒
「それ、結構着てくれていますね」
紅茶を飲みながら、貴臣は俺のシャツを見て笑った。
前にプレゼントしてくれたチェックのネルシャツだ。去年も、秋冬はほぼこればっかり着ていた。
「これ着回ししやすいからさ。他に着たい服なくて困るよ」
「それはとても嬉しいですけどね。明日、ご飯前にどこかで買い物しましょうか」
実は来週は記念日だ。
めでたくも、お付き合い2周年を迎える。
当日は会えないから、明日俺が大好きな焼肉食べ放題に行ってお祝いする予定。大人になったら、オシャレなバーとかで乾杯とかしてみたいな。
「あ、そうだな。買い物とか……」
ふと視線が絡み合って、ぽ、と顔が熱くなる。
と同時に、頬を撫でられた。
大きな手に包み込まれながら、唇を吸われる。
今まで何百回としているのに、未だに初めての感覚だ。心臓がバクバク言う。
口腔を蹂躙され、瞼を持ち上げた瞬間に決めた。
渡すなら今しかない。
「……ちょっと、待ってて」
返事を待たずして、俺は立ち上がった。
テレビ台の棚の引き出しを開けて、掌に収まるくらいに小さな箱を取り出す。
貴臣の前にそれを差し出すと、心底驚いた表情をして固まっていた。これが何なのかはすぐに分かったみたいだ。
「明日、焼肉屋で渡すってのもムードがないし、いつ渡そうかってソワソワしてたんだ。今がいいタイミングかなって思って……」
「あ……開けても、いいですか」
どうぞ、とそっぽを向きながら言うと、貴臣はゆっくりと箱を開けた。
その指輪は、表面から裏面へねじれているデザインだ。
ゆったりと穏やかに幸せな時間が続いていきますように…というメッセージが込められているらしい。
貴臣は呆然としていたので、慌てて言葉を紡いだ。
「一応俺もさ、自分に買ったんだ。アクセサリー感覚でさ、身につけてくれたら嬉しい」
さっき自分で左手薬指に付けてみた指輪を、貴臣に見せる。
貴臣はまだ信じられないといった表情で、箱から指輪を取りだした。
「これ……もらってもいいんですか」
「もちろん。あ、付けてやろうか? 結婚式の歌ってどんな歌だっけー」
わざとおちゃらけながら、適当に鼻歌を歌って貴臣の左手薬指に嵌めてあげた。
あぁ良かった、ピッタリだ。
サイズは本人に聞く訳にもいかなくて、なかなか決められなくて大変だった。
「……兄さん」
「あ、結構高そうに見えるけど実はそうでもないんだ、ごめんな!」
「そうじゃない。兄さん……俺、嬉しいです。本当に……っ」
えぇー、と俺は目を見開いた。
貴臣は鼻の頭を赤くさせ、片手で両目を覆いながら肩を震わせている。
泣かせてしまった。貴臣が泣くのを見たのは、告白の時に次いで2回目。
貴臣が泣くとやるせなくなるのはどうしてだ。
同調されて、俺も涙がじわじわと滲み出す。
「な、なんだよ、このぐらいのことで泣いてんじゃねぇよー」
「泣いてません」
「号泣してんだろ! 息を吸うように嘘吐いてんじゃねぇよっ!」
ふわっと抱きしめられ、貴臣の胸に顔が埋まった。
「俺の方からいつか、渡すつもりでいたのに……大人になったら……兄さんにきちんとプレゼントしようって思っていたんです。まさかこんなにも早く……兄さんから貰えるだなんて思いもしませんでした」
そういう未来を、お前も考えてくれていたのか。
貴臣の涙が頬を伝って落ち、俺の涙と混ざり合う。
ふたつの雫はひとつになった。
「じゃあ、いつかこれよりも高級なやつを貰えるの、期待して待ってるから」
「はい……兄さん、本当にありがとう」
貴臣は俺のことが絡むと涙脆くなるんだな。
俺はいつも貴臣に、色んな意味で泣かされてばっかりだけど。
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