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第123話 恋って難しい*

「お前、馬鹿じゃねぇの? そんな風に焦ってもらっても、こっちはちっとも嬉しくないんだっての」  俺は貴臣の首の後ろに左手を回し、羽交い締めするみたいにぎゅっと抱きしめた。  高価な物をもらったり、高級なホテルに行くことよりも、俺はこうして、この小さな6畳アパートで温もりを感じあえることの方が何倍も大事だと思ってるし、嬉しく思うのに。 「そんな風に気遣うくらいだったら、もっと素直に言ってくれよ。早く会いたいとか、俺もっと貴臣の口から聞いてみたいよ」 「前に散々言っていましたよ。そうしたら兄さん、俺に何て言ったのか覚えてないんですか?」 「え?」 「『貴臣って結構、構ってちゃんなんだな』って笑いながら。だから俺、兄さんを困らせないようにそういうことはあまり言わないようにしたんです。会いに来るのは月2回までって約束だし、兄さんはそういうの、淡白な方なのかと」 「いや、だってそれは……」  毎週のようにここに来たいと貴臣は言ったけど、それは流石に両親に変に思われるし、その『構ってちゃん』呼ばわりしたのも、何となくノリというか……本気と捉えられるとは思ってもみなかった。  そうだ、思い返せば離れて暮らすようになってからすぐの頃は「早く会いたい」と言われていた気がする。だがある時からぱったりそういう言葉は聞かなくなった。  俺の些細な一言を敏感に受け取って、貴臣は気を遣っていたのか。  片想いは大変だって思ってたけど、お付き合いするってのもなかなか難しい。 「……悪かったな、俺のせいで。なんか色々とごめん。んで、ありがと、ここに来てくれて」  そう言うと、貴臣も俺の首筋に顔を埋め、ぎゅっと抱きしめてくれた。  そのまま後頭部に手を回されて、降ってきた唇を受け止める。口腔へと侵入してきた艶めいた舌を絡めとるように動かせば、自慰では感じられなかった満足感と安心感を得ることができた。  貴臣の口の中は暖かいけど、顔と唇は氷のように冷たい。  寒空の下、長時間(さら)された体は冷えきっているのだろう。  少しでも自分の温度を分け与えられるように、深く深く、舌をねじ込むようにした。  顔の角度を変えながら上顎や歯列をなぞっていると、ゾワゾワと肌が粟立っていった。 「……ぁっ……んぅ、ちょ……たか、おみ……」 「ん?」 「あの、これ……とりあえず、外して」  目線の先には木製シェルフと繋がれている右手の手錠。  右手だけ不自然に上がっているのが嫌でお願いした。  貴臣は素直に頷いて、箱の中から鍵を取り出してシェルフとの繋がりを解いてくれる。  そうされてホッとしたのも束の間、今度はなぜか俺の左手に手錠を嵌められ、両手を拘束された状態で鎖を木枠にぐるっと一周されてしまった。 「えっ……なんでっ、やだ、取って」 「俺が全部します。ずっと会いたいと思っていたのは俺も一緒です」  身動きが取れない状況に唇を噛んだ。  本当はいやじゃない。これからどんなことをされるのかと想像しただけで、腹の奥がぞくんとなる。  冷えた指先で脇腹を撫でられ「ひゃっ」と高い声が漏れる。そのままシャツをたくしあげられ、すでに熟れている2つの突起を軽く擦られた。 「あっあ、ゃ……っ」  親指の腹で潰されたり、爪の先で引っかかれたりするだけでもうやばい。顔と足の間に熱がいって、どうしようもなく熱くなってくる。  下着を身につけていない俺のペニスからは先走りがポトポト滴って、貴臣のズボンを汚していく。  突起を口に含まれた瞬間は、背中を弓なりに仰け反らせてしまった。 「──ぁあっ……ん……!」 「そんな声出して、お隣さんに聞こえちゃうんじゃないですか?」 「ん……ん……っ」  指摘され、そういえばそうだと霞んだ頭で考えてもう一度唇を噛んだ。だけど貴臣の舌使いがエロくて、声を我慢できない。 「貴臣……っ、キス、してっ」  口を塞いで、どうにかこの情けない声を抑えてほしい。  涙目で懇願すると、貴臣は胸から一旦顔を上げて、俺の方を見てくれた。  はやく濃厚なキスを……と思ったが、貴臣はますます笑顔になって言う。 「モテ期の来ている兄さんが、バイトの後輩に告白されたっていう素敵なエピソード、詳しく聞かせてもらっていいですか?」

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