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貴方のおしりは、俺が守る!(4)

 俺は臆病だ。  いや、臆病に。  佐藤くんと出会う前は、いろんなことがどうでもよかった。  別れを言うチャンスももらえないまま両親が死んで、ずっと一緒だと思っていた航生も俺の前から去った。  どうせ俺はひとり――そう思っていた。  大切なものなんて要らなかった。  手に入れた幸せは、必ず指の間から零れ落ちていってしまうから。  いろんなことに傷ついて、辛くて、哀しくて。  本当は泣きたくてたまらなかったのに認めたくなくて。  だから、無理やり捻くれていた。  でも今は、怖くて怖くてしょうがない。  佐藤くんに嫌われるのが怖い。  佐藤くんを失うのが怖い。  佐藤くんに捨てられるのが、  怖い。  ――たまには自分から脱いで誘ったりしてさ。  航生の言葉がよみがえる。  俺がセックスに積極的になれないのは、そこに至るまでのプロセスが苦手だからだ。  佐藤くんに相談すれば嬉々として、ア……ナル洗浄、を、して、くれるんだろうけど、それはそれでものすごく……嫌だ。  だからって自分で後ろに指を突っ込むなんて恥ずかしくてたまらないし、ましてや抜き差しして、拡げて、さらに中まで綺麗にしなきゃならないなんて恥ずかしいし、嫌だし……恥ずかしい。  でも、今夜は……今夜だけは、そんなことどうでもよかった。  人差し指と中指が余裕で一緒に入るくらいにはちゃんと後ろを拡げたし、中も時間をかけてぬるま湯で洗った。  いつもは不快感のせいで萎えてしまうそれも、見下ろせば、液体窒素の中に放り込まれたバナナも真っ青になるほど滾っている。  だって、俺は佐藤くんが好きなんだ。  航生にけしかけられたからじゃない。  俺は、俺自身の意思で佐藤くんを求めている。  だから、想像しただけで期待に胸が高鳴る。  野蛮な情欲を携えたふたつの瞳。  だんだんと荒くなる吐息。  噛みつくように貪られる唇。  愛でるように辿る指。  俺の名を呼ぶかすれた声。  ゆっくり、じっくりと暴かれる秘孔。  俺のなかに入ってくる、大きくなった佐藤くんのちん……アレ。  ほしい。  佐藤くんがほしい。  ほしくてたまらない。  **  寝室に入ると、佐藤くんは枕に背を預け、手の中でスマートフォンを持て遊んでいた。 「あ、理人さん、さっぱりしましたか……って、えええぇぇっ!? ど、どうしたんですかそれ!」  佐藤くんの視線を釘付けにしたのは、素っ裸で突っ立つ俺の股間でそそり立つ。 「見ればわかるだろ」  誘ってんだよ。 「ま、理人さん!?」  ギシギシとベッドを軋ませながら圧し掛かると、佐藤くんの声が裏返った。  ムード?  そんなの知るか。 「したい」 「えっ……」 「したい! から、する!」 「なっ……あ、ちょ、ちょっと!」  返事を待つのも焦れったくて、下着ごとパジャマのズボンを引き下ろした。  蒸れた空気が、微かな汗のにおいと一緒に霧散していく。  三日ぶりに嗅ぐ男くさい香りに、全身の血液が煮えたぎった。  元気のないそれをそっと持ち上げ、唇を窄めてキスをする。  すると、佐藤くんの鼻から甘い息が漏れ、ぐでんと垂れていたそれが小さく痙攣した。  乾いていた口内に、どんどん涎が沸いてくる。  まるで、目の前に生肉をぶら下げられた獣のように。 「う……!」  潤った粘膜でそれを包み込み、ジュッボジュッボと音を立てて扱き上げる。  時折舌先で先端をつつくと頭の上からうめき声が落ちてきて、俺はますます嬉しくなった。  凍結バナナの先っぽから、トロトロが溢れて止まらない。  それは上下に揺れる俺の動きに合わせてパタパタと淫らな雫を垂らし、佐藤くんのパジャマをしっとりと(けが)した。 「はあっ……理人さん……」  ガッチガチに起ちあがったそれをぬぽっと吐き出すと、佐藤くんが切なげに俺を呼んだ。  隠しきれない淫欲に塗れた視線が、俺の肌に直接絡みつく。  ああ、ゾクゾクする。  膝立ちになって、佐藤くんの上に跨った。  昂ぶった欲望同士がこすれ合うと、鍛えられた腹筋が蠢く。  ほしくてほしくてたまらないそれを左手で握りしめ、割れ目の中心に当てがった。 「ちょ、ちょちょ、ちょっと!」 「待たない。挿れる」 「だ、だめですって! 全然慣らしてなっ……」 「お風呂でやった」 「え」 「めいっぱい解したし、ア……ナル洗浄、も……して、きた」 「ま、理人さんが……?」 「……うん」 「じ、自分で……?」 「うん」 「う、嘘ですよね……?」 「なんで?」 「な、なんでって……」 「好きな人が隣にいるんだ。ムラムラして当然だろ」 「……」 「佐藤くんが欲しい」 「……」 「欲しくて欲しくて、たまらない」  心の奥から、なにかがじわじわとせり上がってくる。  ああ、やっと言えた。  脳内が不思議な達成感に暖かく包まれた。  呼応するように、滴る雫が勢いを増していく。 「ゴ、ゴムッ……」 「要らない」  佐藤くんの喉仏が、素早く上下した。  上に乗るのは好きだ。  佐藤くんの余裕のない表情が見られるから。  揺れるふたつの瞳を真っ直ぐに見下ろしたまま、自分で柔らかくした蕾に佐藤くんを導いていく。  でも、充血して膨らんだ亀頭に抗われ、なかなか望んだものが得られない。  早鐘のように打ち続ける鼓動ばかりが、どんどん先走っていく。  早く。  早く。  俺は肺の底からゆっくりと息を吐き出し、下腹部に力を込めた。  すると、頑なだった先っぽがぬぽんっと中に吸い込まれる。 「んんっ」 「やっぱりだめ!」 「え? あ、ちょ、待っ……」  下ろそうとした腰はすぐに持ち上げられ、埋もれていた肉棒ごとズッポンと引き抜かれた。  やっと手に入れたそれを失い切なく喘ぐ後孔と一緒に、俺の心にもぽっかりと穴が開く。  見下ろした佐藤くんの輪郭が、ぐにゃりと歪んだ。  なんで?  なんで抜くの?  なんで止めるの?  なんで拒むの?  もう、俺を抱いてはくれないの――? 「だめッ、挿れるのはだめです!」 「なんでだよぉ……っ」 「理人さんのおしりは俺が守ります!」  ……は?

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