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貴方のおしりは、俺が守る!(5)

「これです……」  佐藤くんがおずおずと差し出してきたのは、三日前に届いたばかりのタブレット端末だった。  ノートパソコンが俺の仕事専用になってしまっているから、その代わりにと注文したものだ。  佐藤くんは子供みたいに両手を挙げて喜んで、早速ゲームアプリを入れたりして楽しんでたみたいだけど……今、示されていたのは普通のウェブサイトだった。  その艶やかな画面を覗き込む……と、 「『アナルでメスイキするための前立腺オナニー! 猿でもわかるABC』……佐藤くん?」 「しょうがないでしょ、暇だったんです! 料理だってピアノだって読書だってゲームだって、家でできることはもうひと通りやったし、理人さんは仕事で忙しそうだし! だからネットサーフィンでもと思ったら、いつの間にかそこにたどり着いてて……」 「どうやったらこんなところにたどり着くんだよ!?」 「あ、それは俺の閲覧履歴で……」 「いやだ! 絶対見ない!」  最近ますます変態っぷりに磨きがかかってきている佐藤くんのことだ。  どうせ目を疑うような卑猥な言葉ばかりが並んでいるに決まってる。 「なんだ、興味あるなら俺に言ってくれればよかったのに」 「えっ」 「俺はその、? の経験はないけど、佐藤くんの頼みならいろいろ研究して、頑張って……」 「ち、違いますよ! メスイキさせたいのは理人さんに決まってるでしょ!?」 「俺かよ!」  なんだよ、ちょっとだけワクワクしたのに。 「あー……その、メスイキ? については後でじっくり議論するとして……このサイトがなんで『理人さんのお尻を守る!』に繋がるんだよ」 「最後を読んでください」 「嫌な予感がしかしないな、どれ……『ただし、ご注意ください。一度メスイキという禁断の扉を開いたら最後、後戻りはできません。――(中略)――最後に、大事なことを言います。アナルを使いすぎると、脱肛したり痔になったりして、肛門科にお世話になることになります。最悪の場合、人工肛門になる可能性も! すでにアナルの刺激なしではイケなくなってしまったメス男の皆さんにはもう遅いかもしれませんが、くれぐれもアナル遊びはほどほどに!』……なるほど、これか」  ……って、なんてことを朗読させるんだ! 「はー……佐藤くんはもうネット禁止!」 「えぇっ!?」 「一度開いたら後戻りできない扉を俺に開かせようとするな!」 「だって、理人さんに言わせたかったんです!」 「は? なにを……」 「『あぁんっ、だめ、だめぇっ、英瑠(える)、足りない! 前だけじゃ足りないっ! イケない、あ、あっ、やだ、やだやだ! イきたいよぉ……』」 「……」 「『お願い、英瑠っ、うしろ、突っ込んで! あそこ、グリグリしてぇっ……じゃないと、俺ぇっ、ずっとイけないからぁっ……あっ、あっ! そ、そこ! もっと、もっと激しく――』」 「わかったもういい!」  なるほど、佐藤くんは暇すぎるとおかしくなる……よし、覚えた! 「ごめんなさい、理人さん」 「……」 「怖かったんです。最近ずっと一緒にいるし、理人さんは忙しそうだし、でも仕事中の理人さんがかっこ良すぎて見てたらどんどんムラムラしてくるし、我慢しなきゃって思うのにいつも結局押し倒しちゃうし……」 「……」 「こんなにいっぱいセックスしてたらマンネリ化しちゃうんじゃないかって……だからちょっと調べてみよう、って……」 「……」 「そしたらお尻のことが書いてあったから……でもそれで理人さんを不安にさせちゃうなんて……」 「……」 「本当にそんなつもりはなかったんです。ごめんなさい、俺がバカでした……」  佐藤くんの声はどんどん先細っていき、最後には震える吐息に紛れて消えた。  すっかり項垂れてしまった佐藤くんの後頭部を見下ろし、 「ほんと、バカだな」  鼻息と一緒に吐き出すと、逞しい肩がふるりと震えた。 「あのな、なんか勘違いしてるみたいだけど……俺にだって性欲はあるんだよ」 「……はい」 「ま、それは、その、さっきの……で十分分かったと思うけど……そ、その、も、もっと言うと、勤務時間中のセッ……クスは罪悪感とか背徳感とかすごくて、実は逆に盛り上がってたりもするんだからな!」 「えっ」 「……」 「え、ええっ! ほ、ほんとですか!?」 「ほんとだこのやろう! それなのに急に手を出してこなくなるから! この三日間ず……っと悶々としてたんだぞ!」  いろんな意味で! 「理人さん……!」 「だいたい、マンネリ化ってなんだよ」 「ご、ごめんなさい」 「俺と普通にしてるだけじゃ物足りないないってことか?」 「ち、違っ……」 「抱けよ」 「……へ?」 「違うなら、今すぐ俺を抱け」 「で、でも……っ」 「佐藤くんの好きにしていいから……っ」 「えっ……」 「……」 「理人、さん……?」 「頼むから、抱いて。もう……」  ――我慢、できない。  佐藤くんの咽喉が、ごくりと鳴った。

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