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第3話
「さーやー?」
はじめに来たのは、洗面所。
洗濯機の中や風呂場を覗くが、どこにも沙耶の姿はない。
洗濯物の山を掻き分けても、可愛らしい彼女はいなかった。
「ふぅ……この前はこの辺に隠れてたから、絶対いると思ってたんだけどなー」
そう言いながら踵を返すと、洗面台に置かれた歯ブラシに目がいく。
ピンクとブルー、そして……何故か真新しいグリーンの歯ブラシがスタンドに立てられていた。
「アイツ、替えた時に古いの捨て忘れたのか?」
そう思って手を伸ばしかけるが、一応人様の物だし……と手を引っ込める。
後で雅也に言っておこうと、ひとりで解決をしかくれんぼの続きへと戻った。
次に向かったのは、雅也もいるキッチン。
たまーに沙耶の奴、かくれんぼだって言うのに、俺が別の部屋に移動した瞬間、ちょこちょこ動き回って、雅也の陰に隠れたりしてんだよな。
ーーガチャ。
「見つかった?」
「いや、まだ」
雅也から声をかけてくるってことは、ここにはいないってことか。
うーん、と悩みつつも一応部屋全体を見渡す。
3つずつ食器が並んだ棚に、電子レンジ。炊飯器に……冷蔵庫。
どこにも沙耶が隠れられそうな場所はない。
「あっ……!」
でもひとつだけ、今までと違った所を見つけ、思わず近く。
「これ、新しいやつ?」
「うん。今朝、沙耶が描いたんだよ」
マグネットで冷蔵庫に貼られていたのは、大きな男性2人と可愛らしい女の子が笑顔で手を繋いでいる絵だった。
それぞれの上に「まーくん、あっくん、さや」と書いてあるから、俺たちなんだろう。
「すげー幸せそう……。ってか、なんで俺が真ん中なんだよ。普通は沙耶が真ん中だろ」
雅也と沙耶に挟まれて、ニコニコと笑っている自分のイラストに思わず声を出して笑ってしまう。
「梓は素直じゃない、さみしがり屋さんだからね……真ん中でいいんだよ。それに、これが俺たちにとっての普通だから、間違ってはいないかな」
「雅也……」
何か意味を含んでいるような言葉に、上手く言葉を返せなかった。
「……ほらっ! 早く沙耶を見つけてあげなきゃ」
「おっ、おう。そうだよな」
雅也に背中を押され、一歩踏み出す。
そろそろ帰る時間でもあるし……と、俺はキッチンを後にした。
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