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第5話
「えっ……こっ……れ」
うまく言葉が出てこない。
俺の勘違いでなければ、この大きさ的に……
「受け取ってもらえないのかな?」
突然の呼びかけに、声のする方へ振り返る。
扉に寄りかかるように立っている雅也が、微笑みながら話し続けた。
「梓に許可を取らなかったのは悪いと思ったんだけど……ごめん。俺たちの関係、沙耶に話したよ」
サーっと血の気が引いていく。焦る俺とは反対に、雅也は先程から笑顔を崩さない。
(どう……しよ…………終わった……)
もうここには来れない。雅也との関係も終わったと勝手に決めつけていた俺は、徐々に意識が遠のきそうになる。
「あっくん」
透き通った可愛らしい声と共に、俺の手が優しく包み込まれた。
「あっくんは、沙耶のこときらい? 沙耶、じゃま?」
「そんなことあるわけないだろっ!」
「じゃあ沙耶も一緒だよ! ……あっくんいないとヤダっ! ずっと……一緒がいいっ」
俺の手を握る沙耶の小さな手に、力が込められる。
「沙耶はね、笑って俺たちの関係を受け入れてくれたよ。まぁ、全部は理解しきれてないと思うけどね」
俺たちの傍にきた雅也は、笑いながら沙耶と俺を纏めて抱きしめてくれる。
「ねぇ梓、気づいた? 洗面台にある歯ブラシと、食器棚にある色違いの皿……全部3つずつあるんだよ。俺と沙耶と……梓の分」
「そこにある枕は、沙耶が選んだのっ!」
彼女が指差す先を見れば、真新しいカバーの付いた枕が3つ、仲良く並んでいた。
「俺たちは梓を迎える準備、とっくに出来てるよ。あとは……梓が頷いてくれればいいだけ」
沙耶の手から小さな箱を奪った雅也は、蓋を開けて真剣な表情でこう言ったーー。
「俺と一緒になってください。残りの梓の人生……全部俺にちょうだい?」
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