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第一章・8
「ち、違います!」
涙目で訴える瑠衣だが、寿士の反応は冷めていた。
全く違う話題を、唐突に振って来た。
「瑠衣、だっけ? Ωだろ」
「なぜ、それを!?」
解るよ、と寿士は喉で笑う。
「フェロモン、だだ漏れ。ちゃんと発情抑制剤、飲んでるの?」
「飲んでます!」
飲んではいるが、一番ランクの低い安い薬だ。
発情期に差し掛かっている瑠衣のフェロモンを抑えるには、不十分だった。
「Ωってさぁ、基本ヤりたがりじゃない? だから、こういうシチュエーションでも楽しめる、ってこと」
「違います……」
もう、泣きたい。
逃げ出したい。
でも、この人は、お客様。
ケーキを5個も買ってくれた、大切なお客様。
だから、逃げられない!
「あれ? 大人しくなっちゃったね」
「……」
瑠衣は、唇を噛んだ。
もう、早く終わることを祈るだけだった。
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