22 / 152

第三章 美味しいオムレツ

 月50万円あげるから、愛人になれ、と。  寿士は瑠衣に、そう言った。 「俺の名前は、楠 寿士。恋人と別れて、寂しいんだ。心の隙間を、瑠衣に埋めて欲しいんだよ」  そもそも、と寿士は言葉を継ぐ。 「クリスマス・イヴに結ばれる、なんて運命以外のなにものでもないだろ? 瑠衣は俺の愛人になる、運命だったんだ」    怪しい。  出会ってまだ2日も経っていないが、この人が僕にこんな甘い言葉を捧げるなんて、絶対におかしい。 「どうして」 「ん?」 「どうして、愛人なんですか? 恋人じゃないんですか!?」  寂しいなら、恋人をって思うのが普通でしょう!?  そんな風に、瑠衣は憤った。 「恋人は、煩わしいし。俺、普通じゃないし」 「普通じゃない、ってのは当たってるけど……」 「恋人に月給払う、ってのも妙な話だろ。愛人なら、不自然じゃない」 「そっか……」  はい、決まり。  寿士は、ぽんと手を打った。 「瑠衣は今から、俺の愛人」 「勝手に決めないで!」 「だって今、納得したろ」 「う」 「敬語も、忘れてたろ」 「あ」  寿士の話術と、月給50万円に、瑠衣は負けた。

ともだちにシェアしよう!