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第三章 美味しいオムレツ
月50万円あげるから、愛人になれ、と。
寿士は瑠衣に、そう言った。
「俺の名前は、楠 寿士。恋人と別れて、寂しいんだ。心の隙間を、瑠衣に埋めて欲しいんだよ」
そもそも、と寿士は言葉を継ぐ。
「クリスマス・イヴに結ばれる、なんて運命以外のなにものでもないだろ? 瑠衣は俺の愛人になる、運命だったんだ」
怪しい。
出会ってまだ2日も経っていないが、この人が僕にこんな甘い言葉を捧げるなんて、絶対におかしい。
「どうして」
「ん?」
「どうして、愛人なんですか? 恋人じゃないんですか!?」
寂しいなら、恋人をって思うのが普通でしょう!?
そんな風に、瑠衣は憤った。
「恋人は、煩わしいし。俺、普通じゃないし」
「普通じゃない、ってのは当たってるけど……」
「恋人に月給払う、ってのも妙な話だろ。愛人なら、不自然じゃない」
「そっか……」
はい、決まり。
寿士は、ぽんと手を打った。
「瑠衣は今から、俺の愛人」
「勝手に決めないで!」
「だって今、納得したろ」
「う」
「敬語も、忘れてたろ」
「あ」
寿士の話術と、月給50万円に、瑠衣は負けた。
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