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第三章・8
「それはそうと、瑠衣はすぐにここへ引っ越してきてね」
「何で!?」
「愛人だから」
でも、と瑠衣は必死で反論した。
「愛人って、普通別宅に囲ったりしないかな? 本妻にばれないように!」
「俺、本妻とかいないし。それに」
それに。
「俺、普通じゃないから」
「ホントに普通じゃない……」
瑠衣は頭痛がしてきた。
ずっと、寿士に振り回されっぱなしなのだ。
「バイトも、全部辞めてよ。月に50万あれば、そこそこ暮らせるだろ? 庶民だから」
「いちいち、カチンとくる言い方するね、寿さんは!」
「瑠衣は、怒りっぽいよね。可愛い顔してるけど」
「誰のせいで怒ってるのかなぁ!?」
「誰?」
あぁ、と瑠衣は脱力した。
万事この調子の寿士と、これから一緒に暮らすのだ。
(ストレス溜まりそう……)
溜息をついて、オムレツをぱくりと頬張った。
忌々しいことに、やはりそれは素敵に美味しかった。
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