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第八章 好きの自覚
「寿士さんなんか、大嫌い!」
クッションを叩き、瑠衣はソファにひっくり返った。
山岡との浮気現場を押さえられて以来、瑠衣の気持ちは複雑になっていた。
クッションに当たり散らした後は、ぴたりと動きを止める。
「でも……、好き? なのかな?」
まさか寿士が、何もかもかなぐり捨てて、その場に現れるとは思っても見なかった。
大学の講義を放ったらかして。
手切れ金300万円まで用意して。
あの後、腕を掴まれホテルから引きずり出された。
タクシーに押し込まれ、マンションに直行だった。
「怒ってると思ったんだけど」
寿士は、いつもの寿士だった。
夕食に、ビーフストロガノフを作ってくれた。
それはそれは、頬っぺたが落ちるほど美味しかった。
「出て行け、とか言われると思ったんだけど」
寿士は、変わらず寿士だった。
ベッドで、散々可愛がられた。
いつもは聞かない言葉まで、飛び出した。
『瑠衣は、俺のものだから。俺だけのものだから』
品物扱いしないでよ、と口ごたえはしたが。
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