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第九章・2

 ふんふんと鼻歌まじりで作り始めた瑠衣だったが、レシピの中ほどになると焦り始めた。 「170℃に温めておいたオーブンで40分焼く。中心に竹串を刺して生地がつかないようであれば、できあがり……、って。何か焦げ臭いんだけど!?」  えと、あの、とレシピの次で絶句した。 「乾燥しないようにビニール袋に入れ、一晩寝かせます……。今日中にできないの!?」  がっくりと肩を落とした瑠衣だったが、立ち直りは早かった。 「大丈夫。明日は13日だから、14日にはきっちり間に合う!」  そうと決まれば、後片付け!  寿士が帰って来るまでに、瑠衣は散らかったキッチンを整えた。  秘密にしておいて、当日驚かせたいのだ。 「寿士さん、何て言うかな。美味しいって、食べてくれるかな」 『美味い。これ、どこで買ったの?』 『ふふふ。手作りだよ、僕の』 『すごいじゃないか、瑠衣。パティシエ顔負けだよ』 「いや、それほどでも。え? 僕にも食べてみろ、って?」  はい、あ~ん……♡  幸せな妄想に、いぶかしげな声が割り込んできた。 「何か、焦げ臭いんだけど」 「ひ、寿士さん!」  寿士が、学校から戻って来たのだ。

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