75 / 152

第九章・3

「それと、キッチンが粉っぽいし、卵の黄身が飛び散ってるし。何かあったの?」 「え、えと。僕、ちょっと料理の練習してて、それで」 「何で」 「たまには、僕がご飯作って寿士さんに食べてもらおうかな、って思って」  寿士は、露骨に不愉快そうな顔をした。 「余計な事するなよ。俺の料理に、不満でもあるの?」 「そんなこと、ないよ」  だったら大人しく一人エッチでもしてろ、と寿士は自室へ入ってしまった。 「人聞きの悪いこと、言わないでよ! 僕だって、いつもいつもオナってるわけじゃないよ!」  まったく、と瑠衣もまた、自室へ飛び込んだ。 「何とか、バレなかったよね」  デスクの上には、まだ温かいココアスポンジが置いてある。 「明日はこれに、ガナッシュクリームを塗って」  そして、寿士さんに美味しいって言ってもらうんだ。  ふふふ、と笑みがこぼれる。 「早く明日にならないかな。早く14日にならないかな」  瑠衣は、機嫌よく浮かれていた。

ともだちにシェアしよう!