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第九章・6

「8時30分、かぁ……」  夜、やはり寿士は遅かった。  リビングのテーブルには、花瓶に活けた可愛いガーベラ。  とっておきの、ジノリの食器。  そして、瑠衣の作ったガナッシュチョコケーキが、箱に眠っておいてある。  瑠衣がソファでうとうとしかけた時、玄関のドアが開く音がした。 「ただいま」 「寿士さん!」  瑠衣は跳ね起き、子犬のように駆けて玄関へ出た。 「おかえりなさい! 待ってたよ!」 「何で?」  いいからいいから、と瑠衣は寿士の手を引いて、リビングへ連れて行った。  テーブルの仕度を見て、寿士は眼を円くした。 「何、これ。どうしたの」 「座って。はい、プレゼント!」 「プレゼント?」 「バレンタインデーだよ!」  ああ、と寿士はうなずいた。

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