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第九章・7

「そういえば、これ」  バッグから寿士が出したのは、四角い包みだった。 「食べていいよ」 「ジャン=ポール・エヴァン……」  有名な、高級チョコだ。  このところ、チョコの勉強ばかりしていた瑠衣には、その価値がすぐに解った。 「陽詩がくれたんだ。俺、甘いものはあんまり食べないから」 「え!? 寿士さん、チョコ嫌いなの!?」  嫌いじゃないけど、と寿士はソファに掛けた。 「あんまり食べない。それだけ」  それより。 「それより、瑠衣も何かくれるんだろ。こんなセッティングまでして」  そう言って、寿士はガーベラの花を指先ではじいた。 「う、うん。ガナッシュチョコケーキ、作った」 「それであの時、あんなにキッチンが荒れてたのか」  寿士はテーブルの上の赤い箱に、目を落とした。 「瑠衣の手作り、かぁ。スリルあるな」 「スリル!?」  楽しみ、じゃなくって、怖いもの見たさ!?  しかし、瑠衣もスリルを感じていた。  寿士さん、どんな反応するかなぁ!?

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