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第九章・8
「な、何、これぇ!?」
箱から現れたガナッシュケーキは、茶色く崩れた物体だった。
「もしかして、常温で保存してた? ガナッシュは冷蔵庫に入れなきゃダメだよ」
「そうなんだ……」
こんなの、ダメ。
美味しくないに決まってる。
「あの、ね。寿士さん、無理して食べなくってもいいから……って、早ッ!」
瑠衣が顔を上げた時、寿士はすでにケーキを一口頬張っていた。
「美味い。結構イケるよ、これ」
「ホント!?」
じゃあ、僕も少し、とフォークを伸ばす瑠衣の手を、寿士ははたいた。
「ダメ。俺がもらったんだから、全部俺が食べる」
「ケチ!」
しかし瑠衣は、ちょっとコーヒーを淹れて来る、と席を立った寿士の隙を見て、一口ケーキを食べてみた。
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