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第九章・9
「こッ、これは……ッ!」
不味い。
途方もなく、不味い。
焦げ臭く、ぼそぼそのスポンジ。
ただ、甘ったるいだけのママレード。
尖った風味を醸す、ラム酒。
どろどろに溶け流れた、ガナッシュ。
それら全てが、不協和音を奏でている。
とても食べられた代物では、なかった。
「コーヒー、淹れたよ。飲む?」
「い、いる!」
瑠衣はコーヒーで、口の中を清めた。
「はぁ……」
舌を少し火傷してしまったが、あの毒々しい味は消えた。
しかし、そうする間にも、寿士はケーキをぱくついている。
「寿士さん、ダメ! こんなの食べたら、お腹壊しちゃう!」
「いや、これは美味しい」
コーヒーを飲みながら、寿士はガナッシュケーキを味わった。
瑠衣の、手作りケーキ。
その真心を、噛みしめた。
「瑠衣」
「ん?」
少し涙目の瑠衣を、寿士は抱き寄せた。
甘い、チョコの匂いがした。
ハッピー・バレンタイン。
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