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第十章・3
「選りすぐりのお嬢さん方だ。ま、見てみろ」
父にA4版二つ折りの台紙に収められた見合い写真を数冊渡され、寿士はそれらを開いた。
プロのカメラマンに撮らせた、最高の写真がそこにはあった。
「皆いいんじゃない? 美人だし、可愛いし」
「真面目に選べ。ちゃんと家柄や履歴にも、目を通すんだ」
丸井食品、竹本物産、サンライズ銀行、石井製薬……。
どれも、一流企業の名だ。
「いいとこの、お嬢さん。か」
それからな、と父は追加で2冊渡してきた。
「こちらが、良家のご子息になる。Ωだが、優秀な息子さんだ」
後継ぎさえ得られれば同性婚にも頓着しない父が、今の寿士にはありがたかった。
(でも、瑠衣を連れてきたら、驚くだろうな)
血統書付きの高級猫の中に、拾った野良猫を放り込むようなものだ。
瑠衣の存在はまだ伏せておこう、と考えながら、写真を開いた。
「岩下石油、宮迫出版……。宮迫?」
何とそこには、陽詩の顔があった。
「宮迫さんのご子息は、お前と同じ大学に通っているそうだ。会ったことは、ないか?」
「ある」
(てか、今付き合ってる)
これは頭が痛くなってきたぞ、と寿士はこめかみを軽く押さえた。
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