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第十一章・4
石井製薬の令嬢は、しとやかな女性だった。
会話の声も小さく控え目で、大人しい印象を寿士は持った。
「どうだ、石井さんのお嬢さんは。気に入ったか?」
「ん~、もうちょっと自己主張のできる人がいいなぁ」
昼食を両親と共に摂りながら、寿士の心はすでに午後のお見合いに向いていた。
(陽詩のやつ、どんな顔して俺と向き合う気だ?)
すでに付き合ってます、とバラされれば、即アウトだ。
両親は、喜んで縁談を進めるに違いない。
「2時から、宮迫さんの息子さんだからな?」
「解ってるよ」
(瑠衣、大丈夫かな)
明るく見送ってくれた、瑠衣。
だがその眼は、真っ赤に腫れていた。
(寝ながら、泣いたんだろうな)
お見合いをすっぽかして、二人で温泉に行けばよかった。
そんなことまで考えるようになっていた、寿士だった。
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