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十二章 好きなのに、臆病で。
『家に帰らず、マンションへ直行とは何だ。ちゃんと報告くらいしなさい』
「悪かったよ。少し、疲れたんだ」
『で? どうするんだ。お二人のうち、どちらかと交際する気はあるのか?』
「丁重に、お断りしといて」
『そうか……。残念だな』
それから、と寿士は父に釘をさした。
「もう、春休みにお見合いはセッティングしないでね。旅行する約束、あるから」
『丸井食品のお嬢さんが、ぜひにとおっしゃってるんだが』
「ん~……。実は、さ。俺、好きな人ができたんだよね」
『何っ!?』
「そのうち紹介するから。じゃあ、ね」
『待ちなさい、寿士。寿士!』
寿士は、父との通話を切った。
電話と入れ違いに、瑠衣がバスルームから出て来た。
「あ~、気持ちよかった」
「あれ? 瑠衣、指輪は?」
「もったいないから、箱に入れて大切に飾ってる」
「バカだなぁ。それじゃ、意味ないじゃん」
持ってきてよ、と寿士は瑠衣に促した。
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