98 / 152

十二章 好きなのに、臆病で。

『家に帰らず、マンションへ直行とは何だ。ちゃんと報告くらいしなさい』 「悪かったよ。少し、疲れたんだ」 『で? どうするんだ。お二人のうち、どちらかと交際する気はあるのか?』 「丁重に、お断りしといて」 『そうか……。残念だな』  それから、と寿士は父に釘をさした。 「もう、春休みにお見合いはセッティングしないでね。旅行する約束、あるから」 『丸井食品のお嬢さんが、ぜひにとおっしゃってるんだが』 「ん~……。実は、さ。俺、好きな人ができたんだよね」 『何っ!?』 「そのうち紹介するから。じゃあ、ね」 『待ちなさい、寿士。寿士!』  寿士は、父との通話を切った。  電話と入れ違いに、瑠衣がバスルームから出て来た。 「あ~、気持ちよかった」 「あれ? 瑠衣、指輪は?」 「もったいないから、箱に入れて大切に飾ってる」 「バカだなぁ。それじゃ、意味ないじゃん」  持ってきてよ、と寿士は瑠衣に促した。

ともだちにシェアしよう!