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第十五章・2
「彼が、相沢 瑠衣。去年のクリスマス・イヴに、知り合ったんだ」
「アイザワ化粧品のご子息、ではないのだな?」
「違うよ。この際、血統書は抜きにして、人柄で瑠衣を見てよ。父さん」
家柄は大切だ、と唸る父親をなだめるように、母が瑠衣に話しかけた。
「御両親は、どういうお仕事をなさっておいでなの?」
「父は公務員です。市役所に、勤めています。母は、専業主婦です」
しっかりした御両親じゃないの、と寿士の母・静子(しずこ)は夫の和士(かずし)を見た。
「地方公務員の資産など、たかが知れてる」
「父さん。資産にこだわるのは、もうよしてよ」
寿士は、わずかに乗り出した。
「瑠衣は、心の優しい良い子なんだ。一緒に暮らしてる俺が言うんだから、間違いないって」
「寿士。人間優しいだけでは、この競争社会を生きていけないんだ。時には、冷酷さが美徳になることもある」
「そういうのは、俺が。楠グループを継ぐ俺が、身につけるべきことだろ? 瑠衣に、それを求めるのは筋違いだ」
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