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第十五章・8

「待ってください、お父さん。お父さんは、寿士の連れて来たこの人を知っているんですか?」 「知ってるも何も、命の恩人だよ」 (それは、大げさ……)  瑠衣は、突然現れた寿士の祖父にも、少々呆れた。  しかし武士は、瑠衣がいかにケガをした自分によくしてくれたかを、語った。  どんなに親切にしてくれたかを、説いた。 「正直、誰も私なんか気にも留めずに行ってしまうと思っていたよ。だけど、この子だけは違った」  声をかけ、けがの状態を見て、タクシーを拾ってくれた。  肩を貸し、病院まで付き添ってくれた。 「今時、こんなに善良な、心優しい人間は稀有だ。そんな人の血を、楠家に入れるのは良いことだと私は思うがね」 「お父さん……」 「今の言葉は、楠グループ会長の意見でもあるよ、和士社長」  父さん、と寿士が静かに声を上げた。 「確かに瑠衣は、社会的背景が薄い人間だよ。でも俺は、瑠衣といる時が一番心が安らぐんだ。将来俺が父さんの後を継ぐという重責を担った時、一番傍に居て欲しい人間なんだ」 「あなた、私も瑠衣さんはいい子だと思いますよ」 「私の折り紙付きだ」  静子が、武士が合いの手を入れ、和士は唸った。 「……少し、考えさせてくれ」    そして立ち上がり、静子と共に去った。

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