140 / 152
第十六章・9
「自らに不利を招くようなことを、正直に隠さずお話しくださいました。わたくしは、その素直で謙虚な心を、信用いたしました」
そして、瑠衣にはマナー講師を付けて、どこに出ても恥ずかしくない楠家の一員にする手筈になっている、と括った。
とどめに祖父・武士が、街中で偶然瑠衣に助けてもらったことを語った。
「いやもう、私もこの年ですし。もはやこれまでと思っておりましたが、瑠衣さんに救われまして」
寿士は心の中でつぶやいた。
(お爺ちゃん、まだ70歳で現役の会長職のくせに。『もはやこれまで』とか大げさすぎ!)
しかし武士の話は、瑠衣の両親の心を揺さぶった。
「こんな子でも、人様の役に立つような、まっとうな人間に……」
涙し、瑠衣を見た。
きちんとスーツで正装したその姿は、家を追い出した頃の情けない少年ではなかった。
「お父さん、お母さん。僕は、寿士さんを愛しています。寿士さんも、僕を愛してくれています。過去の過ちは、もう決して繰り返しません。ですから、この結婚を許してください」
お願いします、と瑠衣は寿士と共に頭を下げた。
ともだちにシェアしよう!