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第十六章・9

「自らに不利を招くようなことを、正直に隠さずお話しくださいました。わたくしは、その素直で謙虚な心を、信用いたしました」  そして、瑠衣にはマナー講師を付けて、どこに出ても恥ずかしくない楠家の一員にする手筈になっている、と括った。    とどめに祖父・武士が、街中で偶然瑠衣に助けてもらったことを語った。 「いやもう、私もこの年ですし。もはやこれまでと思っておりましたが、瑠衣さんに救われまして」  寿士は心の中でつぶやいた。 (お爺ちゃん、まだ70歳で現役の会長職のくせに。『もはやこれまで』とか大げさすぎ!)  しかし武士の話は、瑠衣の両親の心を揺さぶった。 「こんな子でも、人様の役に立つような、まっとうな人間に……」  涙し、瑠衣を見た。  きちんとスーツで正装したその姿は、家を追い出した頃の情けない少年ではなかった。 「お父さん、お母さん。僕は、寿士さんを愛しています。寿士さんも、僕を愛してくれています。過去の過ちは、もう決して繰り返しません。ですから、この結婚を許してください」  お願いします、と瑠衣は寿士と共に頭を下げた。

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