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第3話 城崎京32歳。
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城崎京 32歳。都内で会社経営をしている。
32歳は訳あって偽りの年齢だ。
興味本位で作ったアプリが大当たりし、あれよあれよという間に大企業になり、気まぐれではじめた通販サイトも順調で世界規模に拡大し、何もしなくても金が入ってくるようになっていた。
……目立つことはしたくなかったが金は嫌いではない。むしろ好きだ。
何不自由なく生活ができるのは金があるからだし、都内の高級マンション暮らしも便利で気に入っていた。
……これでこの不幸な血がなければ最高なんだけどな。
単刀直入に言ってこの世には吸血鬼の末裔という者がいる。
吸血鬼。良く民話とかファンタジー映画とかに出てくる不死の怪物でヴァンパイアとも呼ばれている。
面倒なことにうちの一族がそれのようで、ヨーロッパ貴族の一部にひっそりと受け継がれた呪われた血が俺の中にも流れていた。
吸血鬼は人の生き血を吸い、それを貴重な栄養源として生きていたらしい。
しかし現代の世に生きる子孫全員が生き血を欲するわけではない。
その吸血鬼の血は時代で進むにつれ薄れていき、人間と同じように普通に生活できる者が殆どだった。
そもそも人の生き血を吸うなんていう蚊のような野蛮な異常行為がこの現代社会受け入れられるわけがない。
そんなことは百も承知だが、子孫の中にはその血を濃く受け継がれて生まれてしまう者がいる。
それらは定期的に生き血を欲し吸収し、自分のエネルギーにして密か生き延びているのだ。
しかしひっそりと生きたい気持ちとは裏腹に、その者達の能力は高く現代社会の中ではプライド高い上流層に多くいた。
俺は物心ついた時から不思議と周囲の子供と自分は違うと思っていたし、親から学習するにつれ自分がどういう存在なのか自ずと理解できるようになっていた。
そして気がつく。自分の年齢が外見と釣り合わないことに。そして親だけが老いて病死してしまった。
年をとるのは周囲の人間だけなのだ。
吸血鬼の血が濃く受け継いだ者を覚醒者と呼んでいる。
……不本意ながら俺もその一人だとその時知った。
成長が一定期で止まり病にかかることもない。
はっきり言って周囲の同級生のレベルが低すぎてゴミかと思っていたのは自分が覚醒者だったからか成る程……。それなら仕方ないと妙に納得した。納得しつつもあることを恐れた。
そう……蚊と同じ吸血行為だ。その行為に俺は嫌悪感を強く感じた。
しかし社会に出てから一種の空腹……飢えを感じるようになる。耐えられるものだったがそれは常に意識の中に存在するようになり、定期的に主張するようになった。
どんなに旨い食事をしてもそれは変わらずじわじわと体内に広がっていく。
仕事で疲れが溜まれば溜まるほど本能的に生き血を欲しその度に心が乱れた。
人の生き血なんて絶対吸いたくない!そう思っていたのだ。
……
……そう思っていたのは何十年前のことだろう。
あの時は俺も若かったなぁと思わずにはいられない。
「城崎さん。昨日のパーティーではすみませんでした」
「……貧血だって?大丈夫?」
「はい……城崎さんが支えてくれなかったら倒れて怪我してたって言われて……本当ありがとうございました」
「いや、たまたまだよ。気にしないで。お大事に」
「こ、今度是非!お礼させて下さい!」
「……ありがとう」
「はい!」
お礼って言われても困るな。君はあまり美味しくなかった。
席を外れ一人になった彼女を惑わすなんてお手のものだ。
外見がいいってだけで女は俺に好意的で、いつしか俺はそんな彼女たちから血を貰うようになった。
これが一番簡単な方法だから。
キスをするように首筋に噛みつくだけだ。
痛みがないように優しく吸うから本人たちは気がつかない。
うっかり吸いすぎて今回みたいに貧血で倒れる子もいるけど、まさか吸血鬼に生き血を吸われたなんて夢にも思わないだろう。
しかしこれまで数ヶ月に一度だったのが、最近月に一度のペースになってきていた。
疲れが溜まっているせいか……飢えている。
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