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第10話 桜偲がこの家に
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京
桜偲がこの家に来てから一週間程立った。
俺は桜捕獲に丸一日私用で使ってしまったので、仕事が溜まり立て込んでいて一日中家に帰れず、出張で家に帰らない日もあった。
帰れても夜遅く寝に帰るくらいで殆ど桜には会えておらず放置状態。
夜中に帰宅し彼に与えたゲストルームを覗いてみると、ベッドに入って眠っているようだ。
彼が逃げず大人しく過ごしている様子に満足した(馬鹿で良かった)
しかしこの男の血は本当に旨かった。
ハッキリ言って今まで捕食した中で断トツトップだ。
あの日……血の香りに誘われ、こいつの住みかまで行き、窓から不法侵入をかまして香りの主を確認した。
男か……と自分が無意識に女をイメージしていたことに気がつく。
飲んで帰って来たのか微かにアルコールの匂いがするが、それよりも彼から放たれる誘うような芳ばしい香りがたまらなかった。
人間には到底分からないだろう血液のめぐる匂い。
今自分が飢えていたら確実にこの場で貪るように捕食しただろう。
生憎数日前に生き血を吸っていてなんとか理性を保つことが出来た。
しかし食べたい。
一度ではなく定期的な栄養補助食品枠として食べたい。
しかしこんな狭く汚ない場所でこの俺が食事なんて出来るわけがない。
それでもこれを欲しいと思ったら行動が早かった。
暗闇の中部屋の机や鞄の中から彼の身分証明書を探し身元を確認する。
そして自分のプライベート用のスマホを彼のスマホの横に置き、その場を立ち去った。
直ぐに彼の調査を部下にさせ、掛け持ちしているバイト先に退職願いを出しアパートの解約の手続きをする。
そんな作業は朝飯前だ。
そう……欲しければ監禁してしまえばいい。
手元に置き好きな時に食えば欲求を解消できるし、その辺の女に無作為に手を出さずにすむ。
女は嫌いではないがもろ勘違いされるから面倒くさいのだ。
一人に決めてしまえば安心して仕事も出来る。
しかし拉致監禁となると万が一揉めた時に面倒だ。
彼の大学の通学は生かしておき、家政夫か何でもいいが仕事を与え十分な報酬を出せば文句はないだろう。
まず回りを固め脅してみてどんな反応を見せるか……まだこの男がどんな性格をしているか分からないので、いくつかパターンを用意しスマホを理由に彼と対面してみる。
しかし彼は拍子抜けするくらい馬鹿な男だった。
俺のスマホを自分が拾った物だと思い込み、焦ってばかりだし何故か謝ってくる。
馬鹿というか平和馬鹿というかやけに警戒心の薄い男だった。
それに大学生の割に幼い印象で高校生でも通用する童顔。
180cmある俺と比べて10cm以上身長差があるだろう低身長。もしトラブルで暴れても余裕で押さえ込むことができる。
都合が良すぎる男で用心していた自身を笑った。
花房桜偲と言う名前の男は、桜と呼ばれているらしい。
確かに桜偲と言う男らしい響きの名前より、桜という優しい名前の方が彼にぴったりだと感じた。
桜には合鍵と生活に困らない十分な金を渡して自由にさせた。
勿論逃げないようにスマホにGPSは付けているし、何より彼の匂いで大体の位置が分かる。
初日に大学から帰宅した桜をマンションのフロントが不審者(挙動不審だったらしい)と勘違いされるというトラブルがあったが、その後は何の問題もなく日々が経過し、それから更に一週間が過ぎた。
その頃、俺も慌ただしい業務からやっと解放され、纏まった休暇が取れたのだ。
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