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第17話 「あ」

** 京 「あ」 鋭い牙を首筋に食い込ませるのに痛みがないのは唾液によるものだ。 吸血する際は一種の麻酔のような分泌液が出て傷口を麻痺させるようだ。 ゆっくり優しく血液を吸い上げるよう心掛けるが、カラカラに渇いた喉を潤すように血液が染み渡ってくる。 旨い…… 少しだけだと思うのに、後少しと後少しと思って止められない。 もっと欲しいと彼の後頭部を手のひらで押さえつけ腰に腕を回し引き寄せる。 濃厚な蜜のような味わいについうっとりしてしまうのだ。 このままたらふく飲んだらさぞ満足だろう……! そう思ったところで我に返った。 ヤバい!吸いすぎだ!! 「……っ!おい!桜!大丈夫か!?」 「…………は、はぃ……」 「悪い!やり過ぎた」 案の定ぐったりしている桜の顔色は血の気が引いて辛そうだ。冷たい汗もかいている。 桜の身体を抱きしめてからソファーに寝かせようとした。 「……ぁ」 「どうした」 「京さ……あったか…………」 「ん?」 「抱っこ……あの……もう少し……抱っこで……スミマセ……」 そう言いながら少し笑った。 桜の額にかかった髪を流してやると薄く瞳を閉じてそのままゆっくりと気を失うように眠りについた。 頬を撫でるとヒヤリと冷たい。 人の体温が心地好いのだろうか俺の腕の中でスースーと寝息を立てはじめた。 ギリギリ大丈夫そうだ。ソファーの上で桜の身体を抱きしめたまま深く安堵のため息をついた。暫くこのままでいることにしよう。 「はあぁ~~~」 やってしまった。 反省と後悔のため息が止まらない。 分かっていたのに吸血を止められなかった。 上手くコントロール出来ると思っていただけにこのざまだ。衝撃はデカい。 途中から夢中になってしまい、みっともなくごくごくと生き血を吸う自分がいた。 もっと深く噛みつけば大量な血液が吸える……ゾクゾクと鳥肌が立つくらい興奮してしまい、血の旨さに誘惑されて桜を殺してしまうところだった。 旨すぎるのも問題だ。 あんなに吸血は好きではなかったのに、今はこの血が楽しみで仕方がない。 腕の中で俺の胸を枕代わりにして眠る桜の肩を抱き背中を撫でてやる。 桜の髪に触れると以前と比べて艶があり手触りも良い。 きちんとシャンプーも使っているようだ。 ガラス張りの風呂に初めて入るときの桜の怯えた顔が脳裏に過り笑えてしまう。 早くこの生活に慣れろと思う反面、あの面白いリアクションをもう少し楽しみたいと思う自分がいた。 変わった奴だ。 暫くは鉄剤を飲ませた方がいいだろうし、昼飯は身体に優しく鉄分豊富なものを食べさせてあげよう。 そう思いながら桜の艶目く髪を優しく撫でた。

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