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第21話 夏休みも

夏休みも終わりに近いた頃、予想外な子から連絡をもらった。 杏ちゃんだ。 僕がアパートを引っ越しした話を知っているみたいで、近くまで来てるから駅で会えないかとメッセージが来た。 もう日が沈んで暗くなっていたけど、駅前で待ち合わせをして会うことにした。 京さんはまだ仕事だ。駅前まで向かうと白Tシャツにヒラヒラした淡いミントグリーンのロングスカートを身につけた杏ちゃんが立っていた。 相変わらず可愛いな! 「杏ちゃん!」 「わ!桜ちゃーん!久しぶり!」 駆け寄って来て軽くハグしてくれる杏ちゃんは、ヒールのせいで身長が僕と同じくらいだ。 「桜ちゃんこの辺に引っ越したって友達から聞いて近くにいたからつい連絡しちゃった。桜ちゃんちょっと会わないうちにカッコ良くなったね」 「そんなことないよ。杏ちゃんは変わらず可愛いね。そのスカートも良く似合ってる!」 「ふふふ。ありがとう!ね、ちょっとどこかお店入ろうよ」 ふんわりと笑う杏ちゃんはやっぱり可愛いくていいなぁって思った。 近くのカフェに入ってアイスコーヒーを頼んだ。 「ね、私たちやり直さない?」 「…………は?」 そんな話が出るなんて予想してなくてうっかりコーヒーを口から吹くところだった。 杏ちゃんは可愛いし性格も可愛い。男女から人気があるいい子だ。 「えっと、山下とは別れたって聞いたけど……それは本当……なの?」 「……うん。山下くんとは終わった」 「な、なんで」 「だってね聞いて。私からあいつお金借りるんだよ。一度じゃなくて何回も借りようとするの!酷くない?何に使うのか聞いたら洋服の返済にだって。使いすぎて苦しいんだって!信じられない」 「……」 ああ……山下の奴め。そんなことをお前は杏ちゃんに…… 「私あいつにそんな何回もお金貸す義理なんてないし!こっちだってそんな余裕ないじゃない?頭にきてとっとと別れてやったわ」 「そっか。それは仕方ないね」 「それでね。やっぱり桜ちゃん優しかったなぁって思ったら、桜ちゃんのこと急に恋しくなっちゃって……会いに来ちゃったよ。ごめん」 「謝らなくていいよ。僕も杏ちゃんに久しぶりに会えて嬉しかった」 「本当!?」 杏ちゃんの表情がぱあっと明るくなると嬉しいなって思った。 その笑顔が好きで好きで何度も抱きしめて僕って幸せだなぁって思ったんだ。 素直に自分の意見を言ってくれるところも好きだし、こんな僕のことを褒めてくれる。 今回会いに来てくれただけで嬉しい。 「だけど僕には杏ちゃんは勿体無いよ。僕なんかより絶対杏ちゃんのこと幸せにしてくれる奴いるから」 「そんなことない!桜ちゃんのこと好きだから私会いに来たんだよ!」 「……」 「……お願い。少し考えてみてくれる?」 「…………う、うん……」 「ありがとう!」 ……まさかまさか杏ちゃんがそんなことを言って来るなんて。 断りきれずに保留にされてしまった。 カフェを出て杏ちゃんとは直ぐ別れた。 やっぱり可愛いかったなぁ。あんな可愛い子は絶対幸せにならないと! 山下のバカヤロー! 杏ちゃんには素敵な誰かと幸せな家庭を築いて欲しい!そう思った。 だけど僕にはそんな権利はない。 ないというか、幸せな家庭のイメージが出来ないんだ。 自分にとって相手にとって何が幸せで何が理想なのかよく分からないんだ。 そんな奴が大切な誰かを幸せに何て出来ない。 僕なんか他人に生かしてもらった命だし、そんな僕が幸せになる権利はないと思ってる。 ……だけど僕って奴は押しに弱く傷つけたくなくて断れなかった。 はぁ……後できちんと連絡して断ろう。 そう考えながらとぼとぼと家に帰った。

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