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第29話 京さんは

京さんは会場の人混みの中、直ぐに見つけることができた。 堂々としてスラリとしたその姿は誰よりも素敵で目立つ。 先ほどとは違う女性と話をしているみたいだけど、その女性もとても美しくて絵になる二人だと思った。 キラキラとした淡いクリーム色のドレスが良く似合ってる。 苦手って言ってたけど本当かな?仲良さそうでとてもお似合いに見えるけど…… まだ若手なのにきらびやかな世界で成功している京さんからは貫禄さえも漂い見惚れてしまう。 京さんってやっぱり凄い人なんだなぁ……大企業の取締役なんだもんな。 そう思いつつ、今更ながら自分の存在が小さな石ころのように思えてきてならない。 誰にも気にされない道の端に転がっている石。 そのうち踏まれて弾かれ砕けて砂になって消えて行く……僕はそんな石ころなんだ。 宝石のように光り輝く二人を眺めてそんなことを思った。 「ほら、花房くん」 「あ」 鷹野さんにトンと背中を押されて前によろけたら京さんと目が合った。 「桜」 「あ、あの……」 「お前どこ行ってたんだ」 「……」 「あら、可愛い子。その子が噂の家政夫さんかしら?」 「……ええ、そうです」 「京さん。はぐれてごめんなさい。気がついたら僕……一人になってて……」 「まったく……何やってんだ」 「あ、あの……僕……」 「あらあらあまり怒らないであげて下さいね城崎さん。可哀想だわ」 京さんの隣にいる女性は美しい瞳を細めて京さんの腕に触れて親しそうにしている。 近い……やっぱり仲が……いい…… 大変だ…… それを見て僕は何故か泣きたくなった。 「あ、あの!すみません……ちょっと失礼します!」 「は?お、おい!」 「あらまぁ」 女性から京さんを無理矢理引き剥がし、腕を引っ張って会場の外へ連れて行く。 僕が自分よりも身長がある京さんをぐいぐい引っ張れたのは、京さんがされるがままになってくれたからだ。 でもその時の僕は夢中でそんな事に気が付く筈もない。 「……」 「はぁ、はぁ……」 「桜」 「きょ、京さん!」 「な、なんだ……」 「あ、あの……あの、あの人と……」 「……」 「け、結婚するんですか?」 「はぁ?」 「あの人のこと好きなんですか!?結婚して家庭をもったら……そうしたら僕は必要……ないですか?家出て行って方がいいでしょうか!」 「何を言ってるんだお前は」 「だってだって……二人がとってもとっても綺麗でキラキラでお似合いだから……なんかもう……僕なんか……石ころだって……」 「石ころ?……あのな。結婚なんかするか馬鹿」 「……だってあんな綺麗な美女と仲良さそうにしてたじゃないですか!」 「お前な……付き合いなんだから仕方ないだろ」 「ほらやっぱり!付き合ってるんじゃないですか!」 「そういう付き合うじゃない!……ちょ!ちょっと黙れっ!」 「ぶ、ぶが!」 手のひらで口を塞がれ喋れなくなる。 そして今度は僕が腕を引っ張られる番だった。 「はぁ~~帰るぞ」 「?ぶは!なな何でですか!僕は一人で帰れます!」 「……もう小一時間はいたし、帰ってもいいだろ。って何でお前一人で帰るんだよ」 「だって、京さん僕のこと連れて行きたくないって言ってたじゃないですか。いいんです、別に気にしてませんから」 「そんな事……言ってた……な。はぁ……ったく色々勘違いしてるな。とりあえずもういいんだ帰ろう。それか……そうだな……どこかで飲んで帰るのもありか」 「……もうシャンパン飲んでますよ、僕は」 「まだ飲めるだろ。折角のスーツだしたまには」 そう言いながら京さんは直ぐに鷹野さんに連絡して会場を後にした。

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