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第30話 京さんに

京さんに連れて来られたのはシックで趣のあるお店だった。 高級感あるカウンター席に案内されて緊張してしまう。 バーかと思ったら、なんと焼き肉店らしい。 いや……僕の知ってる焼肉屋はこんなのじゃないです! 「桜にはちゃんと肉食べて栄養摂取してもらいたいしな。何飲む?桜の好きなものでいいぞ」 「……ス、スパークリングワインをお願いします!」 「ふふ……オーケー」 「あの……お肉はどこで焼くんですか?」 「焼いて持って来てくれる」 「や、焼いてくれるんですか……!誰が!」 「…………シェフ……じゃないか?」 やっぱりここは焼肉屋じゃない! お客はいるのに上手く仕切られていて顔もわからないし、カウンター以外は完全個室らしくとても静かでお店で流れているのは落ち着いたクラシックだ。 「では、乾杯といこう」 「乾杯って何に乾杯ですか」 「うん?そりゃ桜のパーティーデビューだろ」 「はぁ……」 カチンとグラスが小さく鳴り乾杯をする。 先に帰ろうと思ってたのに何故か京さんも帰ることになり、しかもこんな凄いお店に連れて来られて僕は混乱してたしちょっと凹んでいた。 だって京さんはまだあそこに居るべきだったから。 「……なんで、京さん……」 「ん」 「京さんはまだあの会場にいないと駄目なんじゃ……駄目でしょ。帰っちゃ……」 「どれだけ俺に仕事させる気だ?あんなパーティー少し顔を出せば十分なんだよ」 「……でも。何か……すみません……僕邪魔しちゃいましたよね。あの女の人、今頃きっと怒ってますよね。すみません」 「はぁ……あのさ、何がどうなったら俺が結婚するんだよ馬鹿」 「だって!仲良くて親密そうな感じだったし、美男美女でセレブでお似合いだなぁって……」 「……で、俺が結婚したらお前は家を出ていくと」 「はい……そうなったら僕はもうあの家にはいられないんだろうなって思って……」 「…………なるほど……なかなか面白いことを考えるんだな……」 「面白いことじゃないです。真剣にそう思いました。京さんはやっぱり凄い人なんだなぁ~って思ったし……会場の中でも一際キラキラと輝いてましたから」 「そんな風に言われると少し恥ずかしいな。ほらお肉が来たよ。食べなさい」 「い、いただきます」 シャトー何とかって言うお肉をいただいたけど、ビックリするくらい柔らかくて美味しくて凹んでいた気持ちが徐々に元気になっていく。 それに……お酒もとても美味しい! なんという至福の一時。 そんなお肉に舌鼓を打っている時、僕のスマホのメロディーが店内に響き渡った。 慌てて確認してみると…… 「あ、杏ちゃんからだ!」 「……」 「あの京さんすみません!ちょっと電話してきます!」 「どうぞ」

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