31 / 46

第31話 席を外して

席を外して店の外へ出た。 そうだ杏ちゃんにあの時の返事、まだ保留にしてたんだっけ! 少し深呼吸してから電話に出て、好きだった人と話をした。 少し酔っていたけど、きちんと話を丁寧に丁寧にした。 話してみると意外と冷静で落ち着いている自分がいて不思議だ。 話を暫くして店内に戻った。 京さんの飲み物は赤ワインに変わっていた。 「すみませんでした」 「いいや」 「……えっと……元カノからでした」 「……へぇ」 「はい。ちょっと前になんですけど、やり直さないかって連絡もらってたんです。その返事をまだしてなかったんで」 「……」 「あんないい子は僕には勿体無いんで。有難いけどきちんと断りました」 「……勿体無い?」 「はい!凄く可愛くていい子なんですよ」 「……桜はその子のことを好きなんじゃないのか?」 「好きだけど……うーんなんていうか……仲のいい友達?もう恋愛の好きではないみたいな。そんな感じです」 「へぇ……もうその子とセックスしなくていいと?」 「ぶっ!!!な!な!な!」 何てことを急に言うんだこの人!!! 「ん?ガキじゃないんだからいいだろ?って……はは!……顔が真っ赤だぞ」 「きょ!京さんのせいでしょ!恥ずかしいこと言わないで!もう!あ!ワインでスーツ……汚れてないかな……あ」 ジャケットが汚れてないか確認した際、ポケットの中にパーティーで貰った名刺を入れっぱなしだったことに気がついた。 取り出した名刺をカウンターの上に並べ、京さんにもらった経緯を話す。 「………………しっかし……まあこっちは裏にプライベート用の番号まで書いてあるな……」 「ん?あ、そっちの人はうちの大学に友達がいるって……」 「ふーん、本当かねぇ」 「本当……じゃないの……?」 「そういう話って大抵作り話だったりする」 「そう……なんですか?」 「お前を飲みに誘う口実だよ」 「はぁ……そんなに飲みに行きたかったんですかね」 「まぁ……口説きたくなる気持ちは分かるけどな。何処の誰かは覚えたから名刺は燃やしてしまおう」 「口説く……??え、燃やす?」 「桜のことをパーティーに連れて行きたくないって意味はそういうことだよ。お前に惹かれる奴が必ずいるだろうと思ったから」 視線を目の前のワイングラスから隣の京さんに移すと、京さんは僕のことをじっと見つめていた。 いつもより優しい目元にドキンとしてしまう。

ともだちにシェアしよう!