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第4話

   頭上でこだまする呼吸音が、だんだん切迫した響きをはらんでいく。もうすぐだ、と胸が高鳴る。  聖体を拝受する信者のように仰のいて、に備える。  発射する直前、鈴口の照準がおれの額に定められた。  一拍おいて、精液が放物線を描いて飛んできた。ぴちゃり、と唇に命中したやつが垂れ落ちてしまわないうちに、あわてて舐めとる。  独特のしょっぱさと苦さが癖になるエキスに、聞こえよがしに舌鼓を打つ。  本当は股間にむしゃぶりついて、ねぶりたてたい。直接、飲み干してあげたい。  けれどモリは潔癖症なところがあって、缶ジュースの回し飲みなんかに拒絶反応を起こすタイプだ。  口の中はバイ菌の巣──がモリの持論で、フェラされるのに抵抗があるとのことで、おあずけを食らいっぱなしだ。  ひととおり射精()し終えると、モリが腰をかがめた。頬に掌をあてがってくると、粘土をこねるような手つきで白濁を顔じゅうに塗り広げていった。  何滴かが目に入って、しみた。それでも舌が届く範囲は隈なく舐め尽くす。 〝杜野尚文のもの〟という付加価値がつけば、爪の切りかすさえ真珠のような光沢を放って見えるのだから、恋って不思議だ。  ベルトにこすれたところがミミズ腫れになっていて、シャワーを浴びるとひりひりした。  どうせなら腕がもげるくらいきつく縛ってくれればテンションが上がったのに、自称ドSはやることなすこと中途半端だ。  バスローブを羽織って部屋に戻り、ソファに並んで腰かけた。モリが缶ビールのプルタブを引きながら、苦笑交じりに話しかけてきた。 「カイトは相手をより好みしないな。さすがにセックス依存症だけのことはあるな」 「うん、屈折系のブサ男は特に歓迎」  おどけてVサインを掲げた。半分こ、とダメ元で缶ビールに手を伸ばす。生理的に駄目だとわかっていて試すまねをするあたり、我ながら性格がゆがんているったら。  案の定、缶が遠ざけられてがっかりする羽目になっても自業自得というものでしょう。

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