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第7話

   悪党を素手で退治するヒーローは、漫画か映画の中にしか存在しない。  ただでさえモリは粘着テープでぐるぐる巻きにされていて、芋虫のように這いずり回るのがやっとというありさまだった。肌は濃淡の異なる痣に覆われて痛々しかった。  ──殺さないでください、カイトを殺さないでください、俺を殺さないでください……。    モリは畳に額をすりつけて命乞いをした。百年の恋も冷める情景、と嘲笑ったやつは、いち ど殴られてみれば暴力をふるわれる恐ろしさが理解(わか)るはず。  反撃ひとつできなかったからといって、ヘタレだなんて誰がモリを嗤える?   肋骨も折れていて、死相が現れたような土気色の顔をしていたんだけれど?  ともあれ、ふたりしてボロ雑巾のように成り果てたころにようやく解放された。  モリは自分を責めた。おれも自分を責めた。  助けてほしかった、それはこっちの科白だ、と罵り合って、責任をなすりつけ合ったあげく喧嘩別れをするのがふつうなのかな。  だけどアナクロい言い方をすれば純潔を穢される場面を目撃されたからといって、恋心を葬るのはつらい。  モリも同じ気持ちだと言ってくれた。  とはいうものの、後遺症は重かった。おれは無理やり開発された後ろが疼いて禁断症状に悩まされた。  モリは、おれを組み敷くとフラッシュバックに襲われて突発性勃起不全症を発病する──要するに、おれとはエッチしたくてもできない、という呪いにかかってしまった。  哀しみと苛立ちの間を行ったり来たりしているうちに、桜が咲いて散った。  出口の見えないトンネルをさまよっているようなときに、モリが突飛な解決法を編み出した。記憶を改竄(かいざん)してしまえばいい、と。  つまり自分たちの意思で監禁・凌辱コースをたどった、というふうに脚色する。  この方法がうまくいけば、あれはちょっとしたアクシデントにすぎない、というふうに黒歴史を塗り替えられる──と。  発想の転換だ。  以来、手ひどく扱ってくれそうな男にコンタクトをとっては〝無邪気にモリに恋していたおれ〟を殺されたあの二十四時間を何度も何度も追体験する。  玩弄されるのは大好きだ、趣味だ、と自己暗示をかけて、レイプされている最中に心ならずもイッってしまった自分を正当化する。

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