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第11話

「学習能力がないのか、また、ひどい目に遭わされて病院に担ぎ込まれたいのか。へらへら笑ってスパンキング? なに考えてんだ」    口ごもり、ラグマットをむしった。悪夢のような出来事を青春のほろ苦い一ページに昇華するには、荒療治をほどこす必要がある。  発案者はモリ自身なのに今さら反対派に鞍替えするのは、虫の居所が悪いってやつかな。  ゴム紐が蒸れて、むず痒い。眼帯をずらしてこめかみを搔くと、その手を摑まれてひねりあげられた。 「痛いってば。いきなり、どうしたの?」 「痛くされるのが好きなくせしてカマトトぶるな。レイプされてドMの才能が開花したんだもんな」  猫なで声でそう囁きかけてきながら、いちだんと荒っぽく腕をねじりあげる。  あまりの豹変ぶりに、ビンゴ、とおどけるより先にきょとんとしてしまう。  ただ、素人考えにすぎないけれど。モリが突然、凶暴化したのは相応の潜伏期間を経て、から伝染(うつ)された病を発症したからかもしれない。  獲物を嬲り放題に嬲るのが好きで好きでたまらない、という業病を。  今夜のモリは研ぎ澄まされたナイフ以上に危険だ。ひとまず逃げたほうがいい、と直感的にそう思った。  なのでベッドのフレーム伝いに台所側にずれようとしたら。  摑まれた手を梃子に引き倒された。テーブルの角に脇腹をしたたかに打ちつけ、そこに平手打ちを食らって一瞬、意識が遠のいた。  乱調子の雨音は、悪魔の登場を告げるようにおどろおどろしい。身震いした拍子に、柴田の声が耳の奥に甦った。  ──別れるのが正解だ……。  別れるなんてとんでもない、一蓮托生だと、うそぶいて鼻であしらったっけ。  だったら恋情をいわば(かすがい)に苦楽を共にするという構図においては、本当の意味で相手を支配しているのはイニシアティブを握っているほう?   それとも盲従するほう?  病的な恋情を接着剤にして組み立てた、つみ木の家を破壊して、構築して、それを何度も繰り返したすえに行き着く先はどこだろう。  歯がぶつかって切れた頬の内側を舌でまさぐりながら思う。  世界の終わりがくるまでに答えは出るはず。

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