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SideB モリ
純白の眼帯が痛々しくて、それでいてすさまじく似合っているのが癇 にさわった。
「顔射で結膜炎だって? 今度からゴーグルでもしとけよ、あてつけがましい」
舌打ちひとつ、眼帯をむしりとった。返す手で、反射的に閉じられた瞼をこじ開けた。
カイトの白目は、ふだんは子どものように青みがかっている。現在 は、あの廃屋の畳を染めた血の色と同じく真っ赤だ。
その毒々しい色と脳裡をよぎった情景が、俺を狂わせた。
腹の底で咆哮をあげるものがある。昏い衝動に身を任せた。
ほっそりした躰に馬乗りになって、往復ビンタをおみまいした。両手で頭をかばって首をすぼめるさまが、可愛い。そして、おびえた表情 がそそる。
自然と口笛を吹いていた。
蚊を叩きつぶす程度の強さで、さらにもう一往復。カイトは色が白い。髭 も薄い。
つるりとした頬と手形が鮮やかなコントラストをなして、魅惑的だ。
もう一発かますぞ、と威嚇する体 で指の関節をぱきぱきと鳴らすと、カイトはテーブルの脚にすがってずり上がる。
目から鱗だ。他人の上に力で君臨するのは自転車に乗るのと同じくらい簡単なことで、あの男が鼻歌交じりに俺をボコったのも当然だ。
鬱蒼とした森を抜けて草原に出たような爽快な気分を味わえるなら、もっと早く本能の声に従っておけばよかった。
人間は誰しも残酷な一面を隠し持っている。俺の場合は〝属性・獣の杜野尚文〟が、うずうずしながら出番が来るのを待っていたのかもしれない。
きっと、そうだ。荒ぶるものを封じ込めた風船が、きっかけひとつで破裂する段階にきていたんだ。
「試験勉強のジャマをしちゃったから怒ってるんだね。ごめんね、帰るね」
わざと、あっさり行かせた。湿った靴紐が結びづらいらしくて、スニーカーを履くのにもたついているところに忍び寄る。それから、やんわりと膝の裏を蹴った。かしいだ躰を突き飛ばしがてら、足払いをかけた。
つい、勢いがつきすぎた。カイトはうつ伏せにひしゃげたにもかかわらず、
「散らかして、ごめん」
ひっくり返った靴をそろえなおした。
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