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第13話
媚びた態度に、圧倒的な暴力の前になす術もなかった俺の姿がダブる。これは同族嫌悪なのか? そんな生やさしいレベルじゃない。殺意さえ覚えて拳を振り上げた。
だが、ぎりぎりのところで愛おしいと思う気持ちが勝 った。上目づかいで俺の出方を窺うカイトを優しく抱き起こした。
唇を重ねた。結び目を舌で割りほぐすのももどかしく、口腔を荒らす。カイトのそれを搦めとると、ためらいがちに応えてくる舌を通じて戸惑っているさまが伝わってくる。
だろうな。俺は唾液でミュータンス菌が伝染る、という説を信奉しているクチだ。
カイトとだって、舌をねっとりとからめるような濃厚なキスは滅多にしないもんな。
「キレて、悪いな。ちょっとイラついた」
腫れぼったい頬をそっと撫でると、カイトは小さく首を横に振り、肩に頭をもたせかけてきた。
飴と鞭を使い分けてウヤムヤにするのはDVの常習犯の得意技だ。ぶっつけ本番でも、ちゃんとやれるんだな。
苦笑いを浮かべて、カットソーに淡い影を落とす乳首を力いっぱいつねってやった。
「痛いって……今日のモリは、変だ」
「どこが変なんだ。具体的に言ってみろよ、謹聴してやるぞ」
カイトは、ぺろりと舌を出した。場をなごませようとして剽げたのだろうが、逆効果だ。
なおさらムカついた。
俺が武闘派だったら、あの男を撃退できたのか? 実際には恋人を護るどころか、蹂躙されるに任せっぱなしでミジメなものだった。
ああ、ヘタレっぷりをさらしたさ。臆病者は小ばかにされても、しょうがないよな。
ただ……あれは不可抗力だった、自衛本能が働いたのだ。自分にそう言い聞かせても、打ち消すことができないものがある。
さしずめ、ぼこぼこと泡が立つ汚らしい沼だ。やましさや怒りや嫉妬がない交ぜになったものが後からあとから湧き上がって、俺を苛む。
カイトは純然たる被害者だ。犯られている最中に「もっと……」と口走ったのは、脳内である種の麻薬物質が分泌されたからにすぎない。
生き地獄から一秒でも早く逃れたい、と冀 って無意識のうちに計算したのだ。
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