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第15話

 たしかに薔薇色の未来とは無縁の恋だ。  俺がカイトの、カイトが俺の、というふうに、心の傷口をかすかに覆いはじめたカサブタを搔きむしるような真似ばかりして袋小路にはまり込んでいる。  そうと頭ではわかっていても恋心は色あせない。それどころか俺の執着心とカイトの健気さが化学反応を起こして、恋心の範疇(はんちゅう)には収まりきらないものがつのっていく。  たまに不安に駆られることもある。  肉体的にカイトを満足させてやれない俺は、今、この瞬間に愛想を尽かされてもおかしくない──。 「ん、ん、モリ……見てる? いやらしい(あな)がぱっくり口をあいてるの見てくれてる?」   指が二本に増え、三本に増えた。ジェルが泡立ってぐちゃぐちゃと音を立てる。 「廊下に筒抜けだぞ」  ことさら事務的に囁きかけると、きゅっ、と孔がすぼまった。  はにかみ屋のそこに反して、指づかいに拍車がかかる。獲物を消化しはじめたウツボカズラのように蠢く(なか)を覗かせ、見え隠れするペニスが蜜を降りこぼす。  俺のそれもぎんぎんに勃っていて、なのに、こいつは事、カイトに対しては役立たずだ。  ところで俺は好物は最後に食べる主義で、カイトのすべても誕生日にもらおうと楽しみにしていた(四月だ)。  それが裏目に出た。レイプ魔に先を越されるとは、想定外だ。  閑話休題。据え膳を眼前にしてやせ我慢を張っているような構図だが、これが俺たちにとっては定番のスタイルだ。  だいたい愛を確かめ合うためには必ずセックスしなきゃいけない、という法律があるのか?   性欲と愛情を履き違えて恋人を束縛する凡人どもには、理解できっこない。無料レンタル方式で恋人を味見させておいて、そのじつ深い愛情で結ばれている、という関係のすばらしさなんか。  いわば、寝取られの醍醐味だ。 「モリ……ぁ、あん、ぶっといのが欲しい、欲しいよぉ。掃除機のノズルでいいからハメて……!」 「そんなものまで守備範囲なのか。まったく、ブラックホールみたいな孔だな」  どんびき、と尻をひっぱたいてやりながらも、陶酔しきった表情(かお)に魅せられてやまない。つまり、すでに末期症状だ。

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