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第17話

 ただし、こいつの場合はカイトの旧友というアドバンテージがあるのをいいことに、あいつの保護者を自任している点が厄介だ。  偽善者め。いい子チャンぶって俺に説教をかますが、頭の中では夜な夜なカイトを犯しているに決まっている。てめえはキモ・ウザいやつだと、いいかげん自覚しろ。 「木崎が変態どもの餌食になるのを止めるどころか、そそのかす。杜野、おまえは恋人失格だ。あいつが可哀想だ」 「可哀想ねえ……本人は性生活の充実化に、ノリノリなんだが?」  しっ、しっ、と右手をひと振りして強制的に話を終わらせた。読書用の眼鏡を外して、鈍色(にびいろ)にくすんだキャンパスを眺めやる。  今ごろカイトはトイレのドアノブに両手を結わえつけられた恰好で、退屈しのぎに(かかと)で後ろを刺激していることだろう。  荷造り用のロープは本気になってもがけば、ほどける程度に加減して結び目をゆるめてある。  わざわざ鎖や手錠で拘束しなくてもカイトはおとなしくつながれたままでいる、という確信があった。  ちなみに手ごろな円筒形のシロモノは、これだった。なので出がけにヘアムースの缶を挿入()れてきておいたのだが、大いに活用しているはずだ。  まっ、柴田を拙宅にお招きすれば怒り狂うだろうが。  カイトの艶姿に勃ってしまって、それをごまかすのに苦労するだろうが。  帰宅すると案の定、ロープをほどこうとした形跡はなかった。当のカイトは、トイレのドアにもたれて眠っていた。缶は抜け落ちていたものの、存分に睦み合ったもようだ。  和毛(にこげ)が束になってよじれ、乾いた残滓が蛾の鱗粉のようにきらめく。  腕がねじれる窮屈な寝姿で、なのに何か楽しい夢を見ているのか口許がほころぶ。  面と向かって言うのは、こっぱずかしい。すやすやと寝息を立てている今のうちに、好きだと耳許で繰り返し囁く。  小学校の一時期、教会の日曜学校に通っていた。安らかな寝顔は、ステンドグラスにあしらわれた聖母マリアを髣髴(ほうふつ)とさせる。  といっても、娼婦あがりだというマグダラのマリアのほうだ。

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